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この両手にあるのは、傷付ける道具ではない……
これは、誰かを守り、誰かを救い、未来を切り開く為の道具だ

そしてこの手にあるのは、小さな夢と
隣りに居る、大切な人の温もり

和顔愛語

「ウォーリアさん!」
声をかけられて、俺の隣りに居た恋人は不思議そうに振り返った。
俺もつられて同じ方向を見ると、遠くからこちらへとトテトテと走って来る小柄な少年の姿。
「ウォーリアさん、僕と剣の稽古して欲しいんです」
赤い鎧を着た少年、オニオンナイトは自分よりも倍近い背を持つウォーリアを見上げてそう言う。
「構わないが、何故私に?」
「貴方の剣の腕は凄いから……だから、僕に足りない力も分かるかと思って」
そう言う少年に、ウォーリアは少し微笑みかけ「いいだろう」と答えた。
「すまないなフリオニール、少し席を外しても良いだろうか?」
「うん、いいよ」
別に何か急ぎの用があった訳ではない、ここで引き止める理由なんてないから頷いた。

「では、秩序の聖域の方へ行こうか」
「はい」
頷いた少年と一緒に、秩序の聖域へと向かう彼。

「……なんだか、親子みたいだな」
離れて行く二人の姿を見て、俺はそう呟いた。


「オニオンナイト、そういう時はもっと脇を締めた方がいい」
「はい!」
秩序の聖域で剣を振るう二人。
野営地へと戻り用を済ませ時間を持て余した為に、少し二人の様子を見に来たのだが。
見れば見る程に、本物の親子の様だと思う。

「フリオニールも見に来たの?」
「ティナ」
秩序の聖域から少し離れた場所、座るのに丁度良い聖域近くのモニュメントの上。
俺の隣りへと登って来た少女は、隣りに腰かけた。
「オニオンナイトが、ウォーリアに剣を教えて欲しいって」
「ええ、守りたい人が居るから……って」
そう言って微笑むティナは、そっと自分の掌を見た。

「私じゃ力不足なのかな?」
不安そうに言う彼女の表情は暗い。
そんな相手の言葉を「違う」と俺は否定する。
「そうじゃないさ。大切な人を守りたい、ティナはそう思った事ないのか?」
「あるわ、いつもそう……私も、誰かを守りたい…大事な人を、傷付けない為に」
「彼もそう思ってるんだ、ティナの事が頼りないんじゃない。大事な人だから、大切な人だから自分の目の前で傷付いて欲しくない。その為に、少しでも強くなりたいと思うんだ」
そう言うと、ティナは伏せていた顔を上げて俺の方を見た。
「私の力が……誰かを傷つけないように、じゃなく?」
「違うよ。ティナと、明日も側に居て欲しいから…彼は強くなりたいと思うんだ」
そう言って俺は彼女に笑いかける、すると、彼女も少し元気が出たのは微笑み返してくれた。
優しく穏やかな笑顔だ、その笑顔は少女にピッタリの純粋な笑顔だ。
「私も彼を守れるよね?」
「その気持ちがあれば、ティナもきっと誰かを守れる」
彼女の質問にそう答えて、今度は俺が自分の掌を見る。
この手で守りたいと思う人、大事な仲間は沢山居るけれど……一番守りたい人を、この手は守りきれるだろうか?

「フリオニールも、守りたい人が居るのね?」
そう言う少女に、俺は小さく頷く。
「大事な人の、側に居たいのね」
「ああ」
とっても大事な人だ、俺よりもずっと強くて。俺が守りたいなんておこがましい事なのかもしれないけど、でも、守りたいと思う。
この手で、この腕で……。
明日も、貴方の側に居たいから。


「今日はこれくらいにしておこう」
「えっ、僕はまだ出来るよ」
「これ以上続けると明日に差し支えが出るだろう、また今度、共に稽古をしよう」
そっとオニオンナイトの頭を撫でる、その感覚がくすぐったかったのか、恥ずかしかったのか、少年は頬を染めはにかんだ。
「心配しなくとも、君は充分に強い」
「ウォーリアさん」
「これからも、鍛錬を怠るな」
「はい!」
ありがとうございました、とオニオンナイトの声が響く。

「終ったみたいね」
お迎えに行くわ、とティナは俺に告げて此方へとやって来る少年の元へ行く。
少女の姿を見つけ、オニオンナイトは側へと駆けよって行く。
ふと、此方へと見上げたウォーリアと目が合った。
ゆっくりと近付いてくる彼を見て、俺も少女を真似て彼を迎えに行く。
「迎えに来てくれたのか?」
「ああ」
「ありがあとう」
普段の厳しい真面目な表情とは違い、優しく柔らかな微笑み。
闘いから離れた時間。
ついさっき自分が見つめた手、この人を守りたいと思った手を伸ばす。

「どうしたんだ?」
「あっ……いや」
自分の手を取った俺の手を見つめ、ウォーリアは不思議そうな顔をする。
ただ黙って彼の手を強く握り締めて、少し彼の側へ近付くとふっと息を零して彼は笑った。
どうしたのかと思ったら、繋いだ手はそのままに抱き寄せられる。
「ちょっ!ウォーリア……ここ外」
「誰も見てないし、くっ付いて来たのは君だろう?」
それはその通りなので反論できない。
しかし、ウォーリアの言う通り、周囲には他の仲間も敵の姿も見当たらない。
秩序の聖域という名前に相応しく、辺りは静けさに包まれている。
折角二人きりなんだ、少しならこうしていてもいいだろうか?
そう思って、彼の手を握る手と反対の手をゆっくりと背中へと回した。

「まったく…甘えたいなら、そう言えばいいだろう?」
「甘えたい……って、そんな訳じゃ」
反論しようと思ったけど、相手の手がゆっくりと俺の頭を撫でる。
さっきオニオンナイトにしていた様に、優しくあやす様に動く手は心地良くて、言い返す気が失せた。


「ウォーリア、俺は貴方を守れているんだろうか?」
「君が私の背を守ってくれる、共に闘ってくれる、これ以上私にとって心強いものはない」
「そっか……」
なら良かった。
俺は決して貴方の足手まといではないんだと、ただ守られるだけの存在ではないんだと、確かめたかった。

「貴方の事を守りたいんだ」
俺よりも強い貴方に対して、こんな事を言うのはおかしな事かもしれないけれど。
それでも言いたかった、この胸の内にある言葉を。
「私も、君と同じ思いを抱いている」
握り締める手に力を込めて、ウォーリアはそう言った。
顔を上げると、穏やかな表情でありながら真剣な目をした彼がいた。
「君の側に居たいから。これからもずっと側に居たいから、私は君を守りたいと思う」
迷惑だろうか?と彼は尋ねる。
俺はその問い掛けに首を横に振った。
迷惑なものか、その慈愛に満ちた貴方の言葉は…何より嬉しい。

相手へ向けて微笑みかける、同じ様に笑ってくれる貴方に好きだと伝えたい。
ただ口にするのが何だか今は恥ずかしくて、だから黙って、そっと背伸びした。
ちょっとだけ唇で頬に触れて、直ぐに離れる。

「珍しいな、君がこんなに積極的なのは」
ちょっと目を見開き、驚きの表情を見せる相手に段々と自分の取った行動を後悔してきた。
「積極的って……俺はその…」
赤くなった顔を隠す様に、彼の胸へと顔を埋めようとするが、ウォーリアの手がそれを阻止した。
顎にかけられた手はそのまま俺を上に向かせ、真っ直ぐに目の前の人と視線が合う様にする。
「どうせキスしてくれるなら、ここにしてくれ」
そう言うと、俺が何か言う前にその言葉を吸い取る様に、彼の唇が重ねられた。


「今日は本当にどうしたんだ?私はそんなに、君を寂しがらせてしまっただろうか?」
「別に、そういうんじゃないんだけど」
野営地へ戻るその道中、何と答えたものか……と、自分でも分からない今日の自分の行動について考える。
ただ、なんだか無性に貴方の側に居たいと思う、それだけなのだ。
今も繋がれたままの手は恥ずかしいけれど、なんだか嬉しい。

「私はいいんだぞ、いつでもこんな風に甘えてくれて」
「そんなの良くないだろ!恥ずかしいし……皆、目のやり場に困るだろ…」
普通の恋人同士の行動だって目のやり場に困るんだ、それが同性同士となると余計にそうだろう。
でも、俺が好きなのはこの人で。ウォーリアも、俺を好いていてくれる。
幸せだと思う。
だから、失わない様に守りたい。

明日も必ず、こうして隣りに居て欲しい。 そう思って、繋ぐ手に少し力を込めた。

あとがき

フリ—リクエスト小説で、珍しくフリオからWOLに甘えてくる話という事でした……。
糖分濃度は当社比二倍くらい?いや、私の書く小説は大体糖度高めなのですが。特にWOLフリは甘くなる傾向にあるようです。
フリオから甘えてくる…この子はどういう状況だったら甘えてくるんだろうか、と考えた結果こうなりました。

青花子龍様のみお持ち帰り可です。
想像と違う代物に仕上がってしまったかもですが、お気に召していただければ幸いです。

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