一つ一つ、丁寧に囲い込んでいく
小さく、か弱く、か細い、だが振り解けない強力な
それは……俺からアイツへと贈る、紅い枷

薔薇色石

「手、貸してくれないか?」
相手にそう言うと、彼は即答して「いいぞ」とそう答えた。
「何したらいいんだ?」
「いや、普通に腕を差し出してくれたらいい」
「あっ……そういう事か」
納得したらしく、彼は俺へ向けて右手を差し出した。

その手を取り、俺はポケットにしまっていたある物を取り出し、金具を外すと彼の腕へと通した。
紅色の小さな石とシルバーでできた、細身のブレスレットだ。

「あの…クラウド、コレ」
「俺からアンタへ。こういうの、嫌いか?」
彼の胸へと想い描く夢、その花と同じ色をした石に、彼を思い重ねたのだ。
「嫌いとか、そういう事じゃなくてさ…」
何の理由もないのにこういう物は貰えない、という事なんだろう。
俺だって、何の目的もなく贈り物をしたい訳ではない。


俺は掴んでいたままの相手の手へと、口付ける。
ビクリと、驚きに跳ねる相手の体。
愛おしいと感じられる体温。そっと見上げれば俺を、赤い頬に驚いた目で見つめ返すアイツの顔。

「アンタが好きだから」
「は……えっ!?」
「フリオニール、俺はお前の事が好きなんだ」

それが、俺からアイツへ向けた最初の告白。

「あの……クラウド…俺」
「返事はいらない、今はまだ。アンタの隣りに、俺は居たいだけだ」
不安に揺れる瞳にそう告げて、俺は微笑みかける。
「いつでも忘れないで欲しいんだ、アンタには俺がついてる…俺は、アンタの隣りに居たい」


そんな、祈りを込めて…彼に贈る。
一つ目の枷。


それから、彼の俺への反応は変わらない。
いや、俺の方に変化がないから…意識するのもおかしいと感じているのだろうか?
できるだけ、普段通りに接しようと心がけてくれているのかもしれない。


二人きりの天幕の中、朝早くに起きた彼と一緒に、俺も起床した。
「あっ…おはようクラウド。ゴメン、もしかして起こした?」
「いや、少し前から意識はあった。アンタを起こしたくないから、寝ていただけで」
そうか…と呟く彼が、少し安堵の表情を見せ。身支度を進める彼が、後ろの髪を結ぼうとした時、その背後へと近づく。
「俺にやらせてくれないか?」
「えっ……ああ、構わないけど」
無防備に俺に後ろを任せる彼に、俺は信頼されているのだ…と感じ取る。
クセのある前や横の髪とは違って、素直に真っ直ぐに伸びている彼の綺麗な後ろ髪を、普段している様に結ってやる。
時折、触れる首筋がくすぐったいのか、小さく声を漏らす相手に俺は見えない場所で微笑む。

「終ったぞ」
結い終わった髪を離すと、指の間を滑って行く長い彼の銀糸。
「ありがとうクラウド」
振り返って笑顔でそう言う彼が、ふと気になったのか結われた髪に触れると、不思議そうに俺を見つめる。
「クラウド……この髪留め」
紅色の石とシルバーでできた髪留め。
シンプルなデザインだから、彼が身に付けていてもおかしくはないだろう、そう思ったのだ。

困惑している彼に笑いかけ、少し近付くと、その額へと口付ける。
彼から離れると、さっきよりも更に困惑している彼が俺を呆然と見つめている。
「アンタが好きだから」
二度目の告白に、彼は「困るよ…」と小さく呟く。

俺を傷つけない様に、彼はずっと心を病んでくれているんだろうか?
もし、そうだとするのなら。その痛みすら、俺は愛おしさと喜びに変わる。

「アンタが俺を嫌いになってもいい。だけど、俺はアンタが好きだから」
ずっとずっと、変わらずに。
「アンタは無茶をし過ぎるから、心配になるんだ。俺の知らない場所で、消えてしまったりしないで欲しい」


そんな、願いを込めて…彼に贈る。
二つ目の枷。


アイツの俺への反応が変わった。
避ける様な事はしない、それは真面目だからだろうか?それとも、俺に気を遣ってくれているのだろうか?
だが、意識しているのはまず間違いない。


「無茶をするな…と俺は言っただろう?」
「すまない、クラウド……」
反省しているのだろう、彼の声は小さく委縮したものである。
闘いの最中に負傷した彼を何とか助けだし、敵襲の心配の少ない場所まで来てから、手当をする。
手持ちのポーションが少なかった為に、全ての傷を塞ぐ事ができなかったのだ。
彼の足に白い包帯を巻きながら、俺は溜息。
「また後で、ポーションを探してくるから…しばらくは安静にしておくんだぞ」
「ああ……本当にすまない、クラウド。こんな時に、俺は」
何度も繰り返される彼の謝罪の言葉、俺が聞きたいのはそんな言葉ではないのだ。
彼の足を取り上げたまま、その足首へと包帯以外のモノを巻きつける。
紅色の石とシルバーでできたアンクレット。

「クラウド…それは?」
「無茶をするアンタへの戒めだ」
そう言って彼の足の甲を指先で撫で、彼の綺麗な足へと口付ける。

「俺はアンタが好きなんだ…その好きなアンタが自分を守らない事を、俺は怒ってる」
彼に向けた怒りの言葉を、彼は俯き加減に聞いている。
「アンタは強いが、どこか儚い…そんなアンタを失いたくない、俺はアンタの力になりたいんだ」
そんな、思いを込めて…彼に贈る。
三つ目の枷。


俺の言葉が効いたのかは知らない、だが、少しだけ無茶へ減った様な気がする。
それと、俺へとそっと近付いてくれるようになった。
でも、どうやら距離を測りかねているらしい…戸惑う、彼の指先。


彼が泣いている。
彼は普段、絶対に涙を見せない…笑顔で居ようとする、無理していると思っていた。
そんな彼が泣いている。
カオスの軍勢が彼に見せた幻影に、捕らわれてしまって。
現実に引き戻した俺の腕に、彼は誰かの面影を見たのだろうか?


「      」

彼の口が呟いた、知らない名前。
それは誰なのか、俺は知る術を持たない。
だから、彼を引き戻す“俺達”の現実へと……。

「ゴメン、クラウド…本当にゴメン」
胸の中に抱き寄せれば、続く彼の謝罪。
そんな言葉は聞きたくないのだ…と、前も言ったじゃないか。
「アンタは、笑ってる方がいい」
確かに涙は綺麗だ、だが余りにもそれは悲し過ぎる。
取り出した、紅色の石とシルバーのイヤ—カフ。
涙を流す彼の耳へと、優しく触れて取りつける。
彼の耳元へ優しく口付けて、そっと彼の頭を撫でる。
「フリオニール、好きだ……」
優しく囁けば、彼はギュッと俺の衣服を掴んだ。
「アンタが恐れるモノが何かは知らない、だが、俺はアンタを一人にはしない…絶対に」


そんな、誓いを込めて…彼に贈る。
四つ目の枷。


彼はもう、俺を意識せずにいられないようだ。
時折感じる彼の視線は、俺が振り向けば直ぐに消える。
もどかしい、だが、愛おしい。


そっと彼へと近づくと、人の気配を感じ取ったのだろう、振り返って俺を見る相手。
「あっ……クラウド」
その目が見開かれるのを見て、俺は、その隣りに居ても良いかと尋ねる。
黙って彼が頷くので、俺は何食わぬ顔でその隣へと腰を下ろす。
「寒くないか?その格好で」
夜の空気は少し肌寒く感じられる。
鎧やマントを外し、袖の無いシャツとズボンに愛刀を帯びただけの彼にそう尋ねると、彼は首を横に振った。
「クラウドだって、人の事、言えないだろ?」
確かにそれはその通りだが、平気なものは平気なのだ。
「俺だってそうだよ」
そう言って俯く彼の耳元で、紅色の石が揺れる。
耳だけじゃない、彼の腕や足首、髪にも、その色は揺れている。
「気に入ってくれている、みたいだな」
何が?と尋ねる彼に、そっとソレを指示せすと、彼は僅かに頷いた。
「綺麗な色だよな」
「ああ、アンタの夢と同じ色だ」
そう答えると、彼は柔らかく微笑んだ。

「そうだな…のばらと同じ色」
「だから、アンタにあげたかったんだ…ソレ」
「そうなのか、ありがとう」
彼は柔らかい微笑みと一緒に、俺に礼を言った。

「お前に話があるんだ」
彼に向けてそう切り出すと、一体何だ?と、彼は首を傾ける。
「そろそろ、返答が欲しくなってきたかもしれない……」
「返答?」
何の?と考え込む彼へ、俺は腕を伸ばす。
きゅっと抱きついた俺の力、自分のとは違う熱に、彼はハッとした様に目の前の俺を見る。
コツンと彼の胸へと俺の額を押し当てると、困ったような声が上から落ちて来た。
「クラウド…あの」
「アンタが好きなんだ」
彼の鼓動の音を聞きながら、俺はそう呟く。
間近に感じる、心地よい彼の生きている音。
そっと額を離し、ポケットから取り出すのは彼に贈り続けた紅色の石。
銀の金具を外して、彼の首へと彩りを加える…細いチョーカー。
見上げた彼は酷く潤んだ目をしていて、彼を綺麗をとても美しいモノへと飾り付けている。

彼の胸の中心、彼が生きている音へとキスを贈る。
「フリオニール…好きだ」
ドクリ…と、彼の胸の鼓動が大きな音を立てる。
ああ、なんて愛おしい音。
「アンタの隣りを、俺だけのものにしたいんだが…駄目だろうか?」


そんな希望を込めて、彼に送る。
五つ目の枷。


考えさせて欲しい、と彼は呟いた。
考える時間なんて、今までにたくさんあったハズなのに…でも。
「もし、俺の想いに答えてくれるなら…俺は、一生アンタを俺に繋ぎ止めてしまうかもしれない」
だから、よく考えて欲しい…自分の想いを。
俺に繋がれる事が、彼の苦痛であってはいけない。
そう……思うから。


話がある……と、彼から呼び出された。
決意を決めた彼の、意思の強い瞳が俺を見つめ返す。
「クラウド……俺…………」
赤くなった彼は、俯き加減になりそうな目を必死で俺へと向ける。
「お前の気持ち…受け止めてたい、と……そう、思うんだ」
震える彼が、好きだから…と告げる声に、俺は心が躍る。
彼を俺の腕の中に閉じ込める。
「覚悟しておけ、フリオニール」
もうアンタを離す気は無いと、そう告げて。
彼の左手を取って、薬指へと石を贈る。
紅色の石とシルバーのリング。

「フリオニール、愛してる」
触れる事を許された、彼の唇へと口付ける。


永遠の愛を込めて、彼に贈る。
これが最後の枷になる。
これで、アンタは俺のモノだ。

あとがき

60,000HITリクエスト小説完成しました!
mip様のみお持ち帰りOKです、返品も常時受け付けております故にいつでもどうぞ……。

クラフリがお好きだという事で、シュチュエーション等は任されました結果でございますが…いかがでしょうか?
個人的には、クラウドは計画犯・知能犯といったイメージがあるのですね…じっくりと相手をオトしていく様なイメージが。

あと薔薇色石というのはインカローズです、ローズクォーツよりも薔薇に近い色してるパワーストーンです。
正式名はロードクロサイトで、ロード(薔薇)・クロ(色)・サイト(石)、という意味だそうです。

この様な内容となりましたが、満足いくものとなりましたでしょうか?
リクエストありがとうございました!!
2010/8/9

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