[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

長かった冬が終わりを向かえ、暖かな春が訪れる。
気温だけではない、五感でその変化が感じられる。

春の景色は、どうしてこうも暖かいのだろうか?

それはまるで、厳しい世界の中で差し伸べられた、暖かな手のように。

柳緑花紅

ここに辿り着いたのは偶然だった。

険しい道を進んでいた我々の前に、急に美しい野原が広がった。
長閑な緑の野原に、満開の桜の木が立ち並ぶ。
珍しく、こんな穏やかな場所に出た。
本当に偶然だったのだが、折角だからここで一日休みを取ろうか…という事になり、今に至る。

偶には、ゆっくりと体を休ませるのもいいだろう。

「よーし、皆で何かゲームでもやろうぜ!」
愛用のブリッツボールを片手に、そんな事を言い出すティーダ。

「いいなあ、でも俺ブリッツボール知らないんだけど」
「別に誰もブリッツボールするとは言ってないッスよ」
「ようし、なら俺も参加しようかな」
「俺も」
目を輝かせて参加表明するバッツとジタン。

「セシルも参加するッスか?」
「楽しそうだし、参加しようかな」
ふわりと微笑んで、そう言うセシル。

「スコールも一緒にやるよな?」
「…いや、俺は……」
「問答無用、偶には付き合えって」
バッツとジタンに取り押さえられて、スコールが強制参加させられる事になった。

「なぁ、ウォーリア」
その様子を見ていた私に、そっと近付いてきたフリオニールが小声で呼びかける。
「何だ?」
「いや…ちょっと近くを歩こうと思うんだけど、付き合ってくれないか?」
「構わないが」
「そうか、ありがとう」
ちょっと顔を輝かせてそう言うと、ティーダの元へ走って行き、二言・三言、言葉を交わすとすぐに戻って来た。
ああ、何となく理解した。

「参加したくなかったのか?」
戻って来た彼にそう問いかけると、苦笑いして、「俺は球技が苦手なんだ」という返事が返ってきた。
「君にも苦手なものがあったんだな」
器用で何でもこなせるようなイメージしかなかったので、これは意外だ。
「子供の頃から、凄く球技は弱かったんだ、だからできるだけ参加は避けたかった」
「君は、投擲武器も装備できるはずだろう?」
「それとこれは話しが別だろう?」
どうも、武器とボールじゃ勝手が違うらしい。
確かに、形も使用目的も全然違うが…。

「それに…」
「それに?」
そこで言い淀む彼、二人の間に沈黙が続く。

「それに、どうしたんだ?」
先を促してやると、少し顔を赤らめたフリオニールが私の顔を少し伺って。
「…偶には、二人っきりでゆっくり過ごしたかったんだ……」
小さな声でそう言うと、俯く。

瞬きを二回程繰り返した後、私は噴出した。
「なっ!何笑ってるんだよ!!」
「いや、君は…君は相変わらず可愛いな」
「可愛いって……」
私の言葉に不服そうなフリオニール、しかし、可愛いものは可愛い。

「君は可愛いよ」
「もう、いいよ…」
止めてくれ、と溜息混じりにそう言われ、これ以上言うのは可哀相か…と思い、そっと頭を撫でて「すまない」と謝った。
「別に、謝ってほしいわけじゃなくて」
「じゃあ、どうしてほしいんだ?」
「それは……だから!もういいんだって!!」
赤くなってそう言うと、私の手から離れて先へ行ってしまう。

その後を追いかけながら、ふと立ち止まって後ろを振り向くと、遠くでボール遊びをする仲間の姿が見えた。
結局、オニオンナイトも参加させられたらしく、三対三で対戦をしているようだ、その様子をティナが傍で見ている。
そこから離れた場所では、クラウドが仮眠を取っていた。
そういえば、今日の見張りは彼だったな…と思い出した時、私の名を呼ぶ恋人の声が聞こえた。
少し小高くなった場所から私を呼ぶ彼の側へ、ゆっくりと歩いて向かう。

「皆、元気だな…」
丘の上に立つ桜の巨木の下に腰掛け、そう言うフリオニール。
ここからだと、彼等の様子がよく見えた。
「元気なのは良い事だろう」
「そうだな」
彼の隣に同じように腰掛け、彼等の様子を眺める。
自分達よりも年少のオニオンナイト相手でも、彼等は手加減という言葉は知らないらしく、狙っては逆に返り討ちに遭っている。
元気というのか、負けん気が強いというのか…。
まあ、度が過ぎなければ悪い事でもない。

爽やかな風が周囲を走る。
草木の揺られるさわさわ、という音と共に、桜の花弁が散っていく。
「綺麗だな」
「ああ」
天気も良く、青い空に舞う桜の花が綺麗なコントラストを描いている。
しばらく、静かにその様子を眺めていたのだが…。
穏やかな日差しに、ついまどろんでしまう。

「眠いのか?」
うつらうつらと船を漕いでいた私に、そう尋ねる恋人。
そこで、隣に座っていた彼の肩にもたれ掛かっている事に気付いた。
「ああ、すまない」
そう言って身を起こすも、眠気は相変わらず消えてはくれない。
「ウォーリアは、昨日見張りだったからな…」
私の隣に座るフリオニールは、「少し寝たらどうだ?」と私に勧めた。

「しかし…」
「いいじゃないか、誰も怒らないさ」
後で起こしてやるからと、なおも私に眠る事を勧める。
それならば、その言葉に甘えさせてもらおう。

「横になってもいいか?」
「ああ、構わないけど」
「なら、君の膝を貸してくれ」
「…っえ!?」
恋人の驚きの声が聞こえるも、それを無視して座っている彼の膝に頭を乗せる。
「ちょっ!ちょっと!!ウォーリア…」
恥ずかしいだろう、と言いながら、膝の上に乗せた頭を退けようと少し手で押し返す。

「なぁ、ウォーリア…身動き取れないんだけど」
上から聞こえる苦情に、「眠れと言ったのは君だろう」と言うと、「そうだけど…」と、強く言い返せないものの、どこか不服そうな彼の声がした。
「いいだろう、君の膝だと安眠できそうだ」
「…そんな事、言われても……」
恥ずかしそうにしながらも、暴れるのは止めた。

大人しくなったフリオニールは、その代わりに兜を外した私の頭をゆっくりと撫で始めた。
その手の感触に少し身を捩ると、驚いたように手を止めた。
「ごめん、くすぐったかったか?」
「いや、気持ちいい」
続けてくれと言うと、その手はおずおずとしながらも、再び頭を優しく撫でだした。
「平和だな…」
「そうだな…」
闘いの最中に言うような台詞ではないと思うが、今は本当に平和だった。

穏やかな日差しに、青々と茂った草、桜の花、恋人の膝の上というのも贅沢だな。

「いい眺めだ」
彼の顔を仰ぎ見て、そう呟く。
「どこを見て、そう言ってるんだよ?」
「君だな」
そう言うと、顔を赤らめて私から視線を外してしまう。

やっぱり、君は可愛いな…と言葉にすればまた怒られそうなので、それは心に仕舞いこみ。
最上の幸せを感じながら、私はまどろみの中へ意識を手放した。

あとがき

5000HITに間に合わなかった、6000HITフリー小説です。
季節ものでいこう…という事で、丁度桜が良い感じに咲いてたのでお花見に。
平和な話を書きたかったんです。

書いてる途中で、二回の没と三回の書き直しを行いました、そのせいで間に合わなかったのです…という言い訳。
何時も来て下さっている方々への、感謝の気持ちはこもってます。
では、6000HITありがとうございました!!   忍冬葵。

close
横書き 縦書き