ブログ小話まとめ
召喚師として、修行するからには使い魔の一つも召喚できなくてどうするんだ。
…と意気込んでみたのはいいものの、これが中々ややこしい。
「えっと……ここで、こうして…最後に」
本片手にしどろもどろしてる時点で、これはもう失敗なんじゃないのか…とか思い始めた頃。
輝きを放ち、煙を立て始めるその陣を見つめる俺の視線の先。
肥大化していく魔力に、圧倒されかけたその時…。
ボンッという大きな音と共に、爆発した。
「うわぁ!!」
爆風で吹き飛ばされかけるが、そこは何とか持ち堪える。
大量に溢れ出す煙…。
ああ、やっぱり失敗かな?
そう思ったその時。
「貴様が私を呼び出したのか?」
「はい?…っえ、あの…」
その金髪の男は、冷たい美貌を俺に向けてそう尋ねる。
マジで?
成功した……。
「見習い風情が、私を召喚したか…何かの間違いか?」
上から目線でそう話す男。
明らかに、自分が呼び出された事に不満を覚えているようだ。
まあ、見ているだけでも分かる。
威圧感さえ覚える、圧倒的な魔力。
確かに何かの間違いなんじゃないか、と思えるくらいに、相手は高位の魔物のようだ。
「はあ…あの、俺」
「呼び出した以上は、貴様の話聞いてやる、何の用だ?」
高飛車な雰囲気そのままに、相手は俺にそう尋ねる。
ああ、何ていうか凄く言いにくい。
「俺と、使い魔の契約を交わしてほしいんだけど…」
「……何て言った?」
「だから、使い魔の…」
「お前ごとき見習いが私の主人になろうだと?フン、片腹痛いわ」
鼻で笑ってあしらわれた。
お前、召喚されておいてその言い草ないだろう?
っていうか、召喚魔は召喚師には従順に従うものだって習ってるんだけど。
「しかし、召喚された以上は貴様に従わねばならんわけだ…仕方あるまい」
凄く、それはもう物凄く不満そうに俺を見ながら男はそう言う。
その言葉を聞いて、一応俺は安心した。
魔物としての常識は、どうやら持ち合わせているらしい。
「俺はフリオニール、アンタの名前は?」
「マティウスだ……さて、フリオニールと言ったな?契約を交わす上で一つ条件がある」
「条件?」
「そうだ、使い魔と主の力関係が逆の場合において、契約を結ぶ場合は我々の方から条件を提示できる。貴様が私の出す条件を呑むというのなら、その契約考えてもいい」
どこまでも傲慢に、召喚された魔物はそう話す。
「で、その条件っていうのは何だ?」
そう俺が聞くと、マティウスはニヤりと口角を上げて、それはそれは面白がるように笑った。
ああ、なんかいやな予感。
「簡単だ、貴様の体を私に寄越せ」
「……はい?」
どういう意味だよ?
「構わんだろう?それくらいの楽しみがなければ、私だって仕事なんぞする気にはならん…嬉しい事に、貴様の容姿は中々私の好みに合ってる。体で手を打ってやるんだ、安いものだろう?」
「へっ…あの……」
じり、と背後に後退する俺の腕を捕まえると、マティウスは人の悪い笑顔のままに俺を見つめる。
「条件は以上だ、契約を交わすな?」
「えっ…ちょっと待って」
「無限の世の中で、私にとって貴方が唯一の絶対となる事をここに誓い。
万象の世の中で、貴方にとって絶対の存在となる事をここに誓おう」
そう勝手に誓いの言葉を上げると、俺の方を見てニヤりと笑みを深めた。
一瞬、俺の思考はその場で止まる。
「っん!!」
そんな俺の隙を見て、そのまま口付けられた。
いや、主従の誓いには必要だって事は知ってる。
だけど、普通どんな魔物でもキスは主人となる人間の右手にするものだって…そう聞いたんだけど。
「ぅん…ん……」
しかも、しっかり舌入れてるんですが…あの、俺これでも初めてなんですけど、ねえ?
「契約は交わされた、これで晴れて貴様は私の“主人”だ」
大いに喜べ、とキスから解放した直後に相手はそう言ったが…残念ながら、俺の耳にはその言葉の半分も届いていない。
一度結んだ誓い魔の契約というものは、そう簡単に破棄できない。
勿論、主の側からすればそれは簡単なんだけど、それは自分よりも立場の低い低級魔である場合だ。
だけど、相手は一体何がどう間違ったのか…俺よりも、ずっと立場は上なようだ。
こうなると、契約は簡単に破棄できない。
特に、相手がその契約を甘んじて受け入れている場合は……。
「さてと…契約通り、頂いて構わないな?」
「えっ…あの、何を?」
「冗談は抜きにしておけ、契約違反は魔術師として失格だぞ」
「ちょっと待て、マジで待って本当に、頼むから待ってくれ…ちょっと、マティウス……」
醸し出している雰囲気が、異様に怖いんですけど…ねえ。
「安心しろ、どうせ貴様初めてだろう?初めての相手に、そこまで酷い仕打ちをしようとは思わん、まあ…気持ちよくしてやる」
「ひぃ!!ちょっ止め、止めてって…イヤァ!!」
正直、これからこの使い魔と生活しなければいけないとなると、正直もう地獄だと思う。
「天国の間違いだろう?ん?」
「ちょっ!!お前、どこ触ってるんだよ…って、ひぁん!」
まだまだ、一流の召喚師になる日は遠い…。
現在ブログで連載中の召喚士パロの元になった話です。
凄く書く気力が落ちていた時の作品でした、なのでテンションが結構グダグダ。
2009/10/10
「先輩の負けッスね!」
ニコニコと良い笑顔でそう言う後輩を、俺は溜息混じりに見返す。
「暇だからゲームでもしません?」
カードを取り出してそう言った後輩に、俺は暇なら勉強しろ、もうすぐ試験だろう?と、俺はそう言ったのだが…その台詞は綺麗に無視された。
「先に三回負けたら罰ゲームって事で」
そういうのは、大人数の時の方が盛り上がるんじゃないのか?という俺の言葉も、またまたスルーされ、勝手に彼の流れに乗せられる形で、ゲームは始められたわけなのだが……。
「先輩スッゴイ弱いんッスね」
ビックリしたッス、と彼は笑いながらそう言う。
三戦全敗……俺って運悪いな。
「先輩、罰ゲーム決定ッス」
「はぁ…まったく。それで、罰ゲームって一体何やるんだ?」
俺の質問に対し、後輩は目を輝かせて「よくぞ聞いてくれました!」と何やら嬉しそうにそう言う。
あっ……なんか、嫌な予感。
「じゃじゃーん」
そんな効果音と共に、彼が鞄の中から取り出したのは、誰もがよく知るであろうお菓子の赤い箱。
「ティーダ…それで何やらせるつもりだ?」
「何って、そりゃポッキーゲームでしょ?」
「…………誰と?」
「先輩と俺で」
何をにこやかな顔で言ってるんだ、この馬鹿は。
「なっ!!誰がそんな事!」
「だって、先輩ゲームやって負けたじゃないッスか!嫌なら最初っから断ればいいんッス」
うっ……それは確かにその通りだ。
だけど!!
「ほら、文句言わずにやるッスよ」
はい、とポッキーの方端を咥えて俺の方へ差し出す後輩。
ああ!!もう、この流れでやらなかったら機嫌悪くなって、後で面倒なんだよな……。
そっと彼の表情を伺と、してやったりというように、にっと口角が上がる。
コイツ、最初からこれが目的だったな……。
仕方なく、小さく溜息を吐いた後、彼の咥えているポッキーの反対側をそっと咥える。
細長いお菓子の距離というのは、人の距離にすると思うよりもずっと近い。
ポキポキと、小さな音を立ててその距離が縮まっていく。
あと残り少し。
もうそろそろ止まらないと、このままじゃ、本当にキスしてしまう。
相手との距離の近さを思い、そこで進行を止めようとした俺の頭に、相手の腕が回る。
「ん!」
残りの部分を食べきり、抑えていた俺の唇へ自分のものを押し当てる後輩。
ちゅっ、と軽い音を立て、真っ赤になった俺からすっと離れる。
「先輩、ゴチソウ様でした」
ニッと歯を見せて嬉しそうに笑う後輩。
「ティーダ…お前、何でこんな事」
「いいじゃないッスか、オレだって健全な男子高校生ッスよ、恋人とキスしたいって思って、何が悪いんッスか?」
「なっ!!馬鹿!恥ずかしい事を堂々と言うな!!」
「何でッスか?本当の事じゃないッスか」
確かにそれはその通りなのだが、しかし…その、俺の方の気持ちというのを少しは理解してほしい。
「先輩、相変わらず恥ずかしがり屋ッスね…まあ、そこが可愛いところなんッスけど」
「ティーダ…お前なぁ」
年上に可愛いはないだろう、そう思うのだが、今の少し浮かれている彼に何を言っても聞き入れられる事はないだろう、そう思って、俺は溜息を吐くくらいに留めておく。
まったく、彼の笑顔を見ていたら、怒る気力すらも削がれてしまう。
だが、触れ合いたいという気持ちが理解できないわけではないので……今回は、まあ、許すとするかな。
「先輩!」
「何だ?」
「今日も大好きッスよ」
「それ、今朝も聞いたよ……」
ポッキーの日記念です、ポッキーゲームを楽しんでしてくれそうなのはティーダだと思ったんです。
この二人先輩・後輩関係が好きです、っていうか学パロが好きなんです。
2009/11/11
行きつけのバー『ドゥーチェ』のカウンターに座り、後ろの席の二人組を少し見る。
銀髪の二人で、一人は褐色の肌の健康的な青年、もう一人は色白の真面目そうな青年。
「あの二人、よく来るの?」
「三度目だ」
「よく覚えてるな、学生?」
「多分…真面目な感じの二人組だ」
「へぇ……」
マスターの返答に関心しつつ、背後の二人に視線を向ける。
腹話術を試してみるには、いいかもしれない。
マスターが後ろを向いた瞬間、そっと褐色の方の学生に目をやり、意識を集中して腹話術をかける。
「さっさと部屋でセックスしようか!」
腹話術で喋らせる台詞はなんでも良かった、ただこういう場面では発せられない可能性の高いものがいい。
ただ……いくらなんでも、ちょっとやり過ぎたかな?
二人の友情にヒビが入ったら、ちょっと申し訳ない。
「全力で応えよう!!」
相手の友人が威勢よくそう答えるのが背中から聞こえた。
後ろを見ると、色白の方の青年が褐色の青年の手を取っていた。
何が起こったのか理解していない褐色の青年は、「はい?」と相手に疑問を投げかけている。
しかし、そんな褐色の青年をよそに、色白の青年は「マスターお勘定を」と高らかに宣言する。
そのどこか勇ましい、生き生きとした姿に友人(と思われる)青年はきょとんとしていながらも、流れにそのまま流されている。
「君がそんなに積極的になってくれるとは、今夜は楽しめそうだな」
「えっ?あの…ウォーリア?ねえ、何?」
きょとんとしたままの褐色の青年は、友人の勢いに流されるように店を後にした。
「あの二人、友人じゃ…なかった、みたいだな」
「…………」
俺の言葉に、マスターはすっと肩をすくめた。
小説『魔王』を読んだ時の話でした、主人公:ジタン、ドゥーチェのマスター:スコール、エキストラ:ウォーリア・フリオニールの二人でワンシーンのパロをしました。
主人公を誰にしようか迷った結果、結局ハッチャけた事言わせられそうなジタンになりました。
2009/12/4
「クリスマスの予定は、どうなっている?」
そう彼に聞かれて、俺は「何も無いよ」と答えた。
「もし、君がいいと言うなら…別荘に遊びに来ないか?」
静養の為に毎年冬には訪れるらしい、彼の所有する別宅へ招待したい…なんて言われて、戸惑いを覚えつつも俺は直ぐに「行く」と返答した。
「……凄いな…」
「そうでもない」
彼はそうやって否定したが、目の前にあるのは雪の中に佇む洋館である。
「普段は使っていないのか?」
「いや、他の季節には他の家族が使っている、この時期に使うのは私だけだ」
その言葉に、何か違和感を覚えて俺は彼を見返す。
「家族は、来てないの?」
てっきり、家族も一緒なのかと思っていただけに、俺達と彼の付き添いで来ていたお手伝いさん以外に誰も居ないこの館に、何だか寂しさを感じた。
「寒い季節にわざわざ寒い場所に赴く理由が分からないと、毎年言われる」
まあ、確かにそうかもしれないけど…でも。
だとすれば、彼は何時、家族と過ごしているんだろう?
「家族はあまり好きじゃないんだ」
そんな俺の疑問を見透かしたように、彼はポツリとそう呟いた。
「それに、両親は忙しいからな…あまり家族で共に過ごすような日々を送った経験はない」
「…それ、凄く寂しかったんじゃないのか?」
「いや、馴れている」
何て事もないようにそう答える彼の声が、俺には余計に寂しく聞こえる。
「それに、今年は君が一緒だ」
「えっ……」
「君が居るから、今年は例年よりもずっとここへ来るのが楽しみだった」
恥ずかしげもなくそんな事を口にできるウォーリアに、俺は赤面する。
それを見て微笑む彼が、俺の手を取って「案内しよう」と言った。
夕食の後に、ウォーリアは俺の手を取って立ち上がらせると「来てくれ」と奥の部屋へと連れて行く。
昼に案内してくれた場所ではなかったので、一体何があるのかとそう思っていたのだが、普段から落ち着いた印象を持つ彼の、どこか子供っぽい、楽しそうなその雰囲気に、俺は黙って付いて行った。
「ここだ」
少し重そうな木製のドアを開けて、彼が指した先には大きなホールが広がっていた。
夜になって真っ暗な室内には、柔らかなキャンドルの明かりが満ちていて、幻想的だ。
「綺麗だな…」
「ああ…フリオニール、こっちへ」
そう言って彼は俺をホールの中央へと連れて行く。
「ピアノ?」
中央に置かれた真っ黒なグランドピアノの前に、彼は椅子を引いて腰かけると、自分の隣を指示した。
ちゃんと、俺の席も用意してくれていたようだ。
「これしか、私には才能がないからな…聞いてくれるか?」
「勿論!!」
室内には彼の奏でるピアノの音だけが満ちる。
高い天井の上にまで反響して、一つ一つの音が体の奥まで響いていくような、そんな感覚。
巷に溢れる定番のクリスマスソングとは異なる、彼自身の作った彼の曲。
観客はただ一人、俺だけ…。
こんな贅沢、していいのかな?
「フリオニール」
演奏の終わった室内に残る残響音の中俺を呼ぶウォーリアに、小さく「何?」と聞き返す。
そっと彼のピアノを演奏していた細い指が伸び、俺の頬へと触れる。
そのまま、そっと俺の唇へ重なる彼の温もり。
キスされたんだと気づいたのは、彼が離れた後で。
その後直ぐに、俺の顔には血が上った。
それを見て微笑むウォーリアに、俺は恥ずかしくなってそっと俯く。
「もう一曲、聞いてくれ」
そんな俺に彼はそう言って俺の頭を撫でると、もう一度その手をピアノの鍵盤へとかけた。
クリスマスに間に合うかギリギリだったので、ブログでアップになったWOL×フリオ。
ちゃんとアップしたクリスマスネタよりも、綺麗な話だったので、間に合わなかったのが凄く残念です。
2009/12/25