高らかに叫ぶ、それが俺の使命なら…

この声が続く限り、いつまでも叫ぼう


Crimson




ステージ上から、そこに集まる群衆へ向けて、歌う・叫ぶ。
そして感じる一体感、この世の全てが一つになったような、そんな陶酔感に、俺は既に殺られてる。

ああ、素晴らしい。

このステージに居る間、俺は世界の頂点にある。
このステージの上では、俺は王者。
そう、王者だ。
真っ赤な王者、それが俺。

クリムソン


「クリムソンはさ、ライブ中と普段とじゃ、キャラ違うよね」
仲間のシアンはそう言う。

「そうか?」
今は次の新曲の打ち合わせの最中。
彼の書いた曲に合わせて、書いた歌詞は、今回は珍しいアップテンポのポップス。
誰かが彼に影響を与えたのかもしれない、それが誰なのか、大体の予想はつく。

「なんかさ、クリムスンはライブとか歌ってる間、なんていうの…暴君っていうかさ、なんか攻撃的なんだよね」
「そりゃ、攻撃的にもなるさ、歌が攻撃的なんだから」
そして、その理屈でいくと、俺を攻撃的にさせてるのはお前なんだよ、シアン。

「分かってるよ、俺が攻撃的な奴だって事くらい」
俺の言わんとしている事を読み取ったらしいシアンは、煙草の煙を吐き出すと、そう俺に言う。
「そして、それが俺達のアイデンティティーになった。なら、別に構わないだろ?直さなくても」
そう相手に言うと、彼はそうだね、と肯定しながら、でも、と何か続ける。

「化け続けてるとさ、分からなくならないか?自分が一体、何者なのか」
「俺が化けるのは、ステージの上だけだよ」

そう、そこに居る時だけだ。
俺が変化するのはその時だけ、ステージの上で、叫びを上げる時だけ。
その時でないと、俺は変われない。
あの時だけは、あの瞬間だけは、俺は世界でただ一つの存在なのだ。
瞬間的な王者。
観客が求めているのは、そんな俺。

「それってさ、変にならない?自分で自分に酔ってしまうっていうかさ」
「それってそんなに悪い事かな?俺は別にそれでも構わないと思うけど」
だって、この世界であんな興奮を得られるような場所って限られている。

自分がただ一つだと感じられる瞬間。

それは俺達、人がみんな望んでいる事でありながら、中々感じられるものではない。
その時の俺は、俺でありながらも俺ではない。
仮面を被ったように、全くの別の性格の別の人間なのかもしれない。
だけど、それでも俺は俺。
他の誰でもない。

そして、それを求めているのは俺だけではない。
観客であるファンの人々もそうでありながら、ステージ上で共に演奏を続ける仲間達からも、俺の歌声は求められる。
誰かに必要とされるのは、とても気分がいい。
そして、彼等の誰もが欠けても、俺の歌は俺の歌でありえない。
王者を作っているのは、何よりもバンドの仲間達。


「次のライブでさ、この曲やりたいんだけど」
出来上がった曲を見て、俺は仲間にそう持ちかける。 「いいんじゃない、盛り上がりそうだし」
練習を続ける仲間達からは、同意の声。
それに俺は嬉しくなって、彼等の談笑の中に入っていく。

今の俺は、ただの人間だ。
人間のできる事は小さい。
一人ならば。

だけど、状況が変われば人は変わる。

その時に魅せられる力の大きさ、それは本人の持つ大きな魅力。
俺の力はもっと、多くの人にまで影響を与えるものであってほしい。
「よう、お前等!今日はよく来たな」
だから叫ぶ。
歌う。

求める限り。
求められる限り。

仲間の為にも、俺の歌声に魅せられた人々の為にも。
それが俺の使命なら。


「最高のライブにしようぜ!!」




後書き
昨日のライブ始まる前に、携帯でカチカチと書いていた小説です。
ボーカリスト登場、シアンに対してクリムソン、赤と青で対照的な感じにしようと思いまして。
っていうか私の個人的なイメージなんですが。
自分で書いてて王者ってどうなんだ…とか思いましたが、まあ、彼はとあるシングルスのジャケットで棘王って書かれたんで、あながち間違ってもないかな…と。
でも、どこまでいっても彼等は“日本で一番腰の低いヴィジュアル系バンド”です。
そんな彼等を愛してます。

榊薔薇の郁〜夏のお嬢さんの集い〜 楽しかったです。
ヘドバンのし過ぎで、なんと首筋が筋肉痛になりました…きっと自分はヘドバンが下手なんだと思う。
次のツアーも行きたいな!皆さんも行って下さいよ、楽しいですよ。
2009/8/23


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