親父の日常




穏やかな午後の日差しが部屋に差し込んでいた。
開け放した窓からは心地よい風が吹いている。
うとうとしていたワシは、気付いたときには、もう・・・

猫になっていた。

それが、二十年前の話だ。

ワシの名前は猫柳、好物はじゃが芋とたこせん
猫なのに・・・というツッコミは、諸君の心の内で行ってくれたまえ。

「・・・って、言われましても、今ここにオレしか居ないんですけど」
「そこは黙って見過ごそうじゃないか、少年よ」
「はあ・・・あの、オレ一応ここの住人で、名目上はアンタの飼い主みたいなもんなんだけど」

「気にするな」

「いや、猫と対等に見られるのは・・・流石に人間としてね・・・」
「ワシは今年で37だぞ、少年、お前より年上だ」
「いや、でも・・・オッサン猫だし」
「猫が何だ!人を見かけで判断するな!」
「いや、まず人じゃないし・・・はぁ、何でオレ猫と話てて平気なんだろ?」
「ワシは猫じゃない、元々は人間だ」
「今は猫じゃん」
「ふむ、イイツッコミだ」

少年の的を射た返答に満足し、うんうんと頷いていると、少年は何か諦めたように溜息をついた。

「猫が居座ってるから家賃が安くなってるのはいいけど、何で猫が喋るんだよ」
「猫ではないと言っておるだろう!」
「はいはい、ほら食うだろ?じゃが芋」
「うむ、頂こう」

手渡されたじゃが芋を受け取り、はぐはぐと食べ始めるワシを見て、少年はまた溜息をついた。
「少年よ、溜息をつくと飯が不味くなるぞ」
「はいはい、すみませんでした」

何だその言い方は、これだから最近の若者は・・・

「その若者に食べさせてもらってるのは、何処の誰だよ?」
「何!少年よ、お前はワシの心の声が聞こえるのか!?」
「・・・思いっきり口に出てたし・・・」
「ふむ、ワシとした事が・・・」
「まったく、いい加減にしないと、飯抜きにするぞ」

この若者に三食全ての世話を見てもらってるわけではないが。
しかし、文句を言いつつもワシの世話をしているのはこの少年。
同居人と仲良くしておいた方がよいだろう。

「少年よ、このじゃが芋は美味いな」
「そう、そりゃあ良かったよ」

少年はそう言うと、自分の夕飯の支度の続きをし始めた。


二十年前、何故ワシが突然猫になったのかは今も不明だ。
しかし、今もワシはこのアパートで暮らしている。
近隣の住民も、最近はもうワシに驚かなくなった。
二十年、その間にここには色んな人間がやって来た。
今ワシはこの少年と二人で暮らしている。
平和なようで奇妙な日常だが、まあ悪くない。




後書き

という訳で、『猫柳さん』のエピソード・0でした
この話は、友人達との会話の中から生まれた作品でして
個人的にはほのぼの系コメディーになればいいな、っと思ってます

普段あんまりほのぼのとした話は書かないので、サイト内できっと異彩を放つだろうと思われます
まあ、精一杯ほのぼのさせるよう努力します
2008/11/24




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