もれ出る月の 影のさやけさ
中秋ノ月
「「良い月だな…」
そう言って微笑む男は、用意させた団子に手を伸ばす。
縁側に腰掛けて、静かな夜空を見上げれば…そこには、白く輝く月の姿。
「奥州の月もbeautifulだろ?」
「ああ」
笑顔で答え、彼は伸ばした団子を口に入れた。
『観月の宴を開く、是非来てほしい』
そんな文を送ったのが先月の事。
『お邪魔させて貰う』
という返事が来て、喜んだのが十日前。
「今日は、えらく機嫌がよろしいようですな」
「ん?そうかぁ?」
「ええ、鼻歌なぞ歌いながら政務をこなされているので、余程良い事でもあったのかと」
右目と呼ばれるこの男に、自分の心の踊り方を指摘され、そんなに顔に出てたか?と思ったが、それも構わない。
機嫌が良い事は確かな事だ。
「別に機嫌が良くて困る事なんてないだろう?」
「まったく…四国の鬼が来るまでに、この溜まった政務を終わらせて下さいよ」
「OK!任せな!!」
そう言って普段以上に政務をこなす俺の姿を見て、右目の男は小さく溜息を吐いた。
「普段から、そうやって片付けてくれていれば…」
そんな言葉が聞こえた気がしたが、そんな事も気にならない。
中秋の名月を見に、わざわざ奥州まで来てくれたこの恋人に、本当に感謝だ。
「しかし…あれだけ酒を飲んだ後で、よくそんなsweetsが食べられるな」
「あん?あんなもの、飲んだ内に入らねえよ」
そう言うが、宴の最中にこの男はほとんど、杯を呷る手を止めていない。
土佐人である元親は、やはりその郷土の気質を受け継ぎ、かなりの酒豪だ。
それを再確認させるだけの飲みっぷりだったのだが、それでも彼はまだ飲み足りないようだ。
「酒の用意でも、させようか?」
「ん?いや、いいよ……茶が美味いな」
湯気の立つ茶を飲みながら、彼はのんびりとそう言う。
そして、再び団子へと手を伸ばす。
元親は酒豪であるが、甘味を好む。
特に好きなのは饅頭だが、団子も好きなようだ。
笑顔で頬張る姿を見てると、本当にこの男は自分よりも年上なのかと、疑いたくなる。
まあ、そんな子供のような所もcuteなんだけど。
「お前の部下とウチの野郎共、まだ酒盛りしてんのかね?」
屋敷の広間から聞こえてくる、ガヤガヤとした声に彼はそう言う。
「はは、酒盛りできればウチの野郎共も満足さ…まあ、俺も人の事言えねえけどな」
そう言いつつ、彼は茶を啜る。
「しかし、平和だな」
そんな光景を見つつ、元親はそう言う。
「ん?戦の方がいいか?」
「喧嘩は好きだけどよ、平和である事に越した事はねえだろう?」
「まあ、確かにな…」
どこか不満が残るような、そんな俺の物言いを見て、彼は俺の方を見る。
「それに平和でなかったら、四国から奥州まで来るなんてできねえぞ」
「oh!それは困るな」
元親に会えなかったら、オカシクなっちまいそうだ。
「まあ、このままずっと平和でいられる…なんて事は、ないんだろうけどな」
月に薄く雲がかかって、光を遮る。
急に光が消えた所為で、周囲が一気に薄暗くなる。
平和でいられるのは、ほんの一時だけだ。
雲に囲まれた月を見上げるのと一緒。
その光に魅入られていると、どこからか現れた雲に邪魔されてしまう。
その雲を払う為に、戦が起きる。
そんな事の、繰り返しだ。
「元親、膝貸せ」
「ん?…っあ!おい、政宗!!」
相手が静止の声をかけるのも構わず、俺はその膝に頭を乗せる。
嫌なら退ければいいのに、彼は正座で座りなおし俺の頭をその膝に乗せる。
「やっぱり、元親の膝枕はgreatだな」
「……それ、褒めてんのか?」
「of course!!勿論だ」
「はーん…そうかい」
あっ、なんか信じてなさそうだな。
男に膝枕してもらって何がいいのかって、そう思ってる顔だ。
俺にとっての至上の喜びだぞ。
そんな事を説いても、この恋人はそのまま聞き流してしまうだろう。
まあ、幸せは人それぞれだ、分かってもらうのは難しいのかもしれない。
「平和にしてやるさ、この俺がな」
「ッハ!!そうかよ」
「ああ、俺が天下人になって何時でも元親が奥州に来れるようにしてやる。
っていうか、いっそ元親を正妻にして奥に住まわせようかな…」
「おいおい、冗談は止めろよ」
苦笑いでそう答える元親。
jokeじゃないんだが…まあいい、後で嫌という程分からせてやろう。
床でな。
そんな俺の下心なんて、彼には見えていないようで「でも…平和になるのは、いいかもなぁ」なんて呑気に呟いた。
俺の髪に指を差し入れ、優しく梳く。
それが気持ち良くって、瞼を閉じる。
「戦が必要なくなったら、俺は野郎共連れて、色んな場所に宝探しにでも行こうかね。
そうだな、どうせなら、広い海に出たいな…世界の広い海に」
「おいおい、恋人の俺、放って行くのか?」
すねたようにそう言うと、彼は笑った。
「まさか、その時はどうだ?一緒に世界を渡ってみるってのは」
「haneymoonに海外旅行か……悪くないな」
「なんだ?その“はねむーん”っていうのは?」
意味通じないんだから、南蛮語使うの止めろと、元親が困ったように言う。
「蜜月って意味だが…新婚の夫婦で行く旅行の事を、南蛮ではhaneymoonって言うのさ」
「へぇ……って、何だよ?夫婦って、男は嫁げないだろうが」
「天下人になった暁には、そんな掟は俺が壊してやるさ」
「はいはい」
本気にしていないような返事、だが…まあ仕方ないだろう。
夢物語なんて、大きい方が面白い。
誰も予想できないくらに、大きくで馬鹿げているものの方が、秋の夜長の話には最適だ。
だが、それがただの夢で終わるかどうか…。
それは、個人の生き方次第という事だろう。
「幸せにしてやるぜ、元親」
「だから、奥州に嫁げってか?無理な相談だな」
ベシっと俺の頭を軽く叩いて、元親はそう言う。
軽くと言っても、結構痛いぞ…加減くらいしろっての。
「んだ?婿養子が欲しいなら、俺が四国に行くって手もあるぞ」
その時は、奥州の事どうするかな…なんて、本気で考えかける。
「…そういう問題じゃないだろうが」
はぁ…と溜息を吐く元親が、団子に手を伸ばす。
「政宗、お前…かなり酔ってるな?」
「ha!!そんなわけないだろ?いってもほろ酔い程度さ」
「嘘だな」
実際、元親が言うように結構酒は飲んでいるが、元親に比べれば、まだまだだ。
「土佐人を基準で比べるな、特に俺はかなりのザルなんだぞ」
そう言うと、再び頭を叩かれた。
この時までは、俺はまだ素面に近いと思っていたんだが…実際はそうでもなかったらしい事は、翌日明らかになる。
そんな俺を気遣って、元親はさっき酒を辞退したらしい事にこの時気付いた。
優しいよな、元親は。
「愛してるぜ、元親…」
「ん…知ってるよ」
秋の夜長、風が吹いて月が顔を出す。
平和な世界を形作る為の道筋を、ただ煌々と照らし出すように。
幸せな夢を、今はただ見守っている……。
良かった!間にあった月見話!!
今までBASARAでもFFでも、よく月見話やってて、中秋逃すとかそんな事したらどうしようかとか思ってましたよ。
…でも、話の内容がまったく意味ない…つまりは酔っ払いの戯言という……。
幸せというか、平和な話を書きたかったのです。
ようやく、伊達親を書けました…にしても、奥州筆頭、喋りが難いです。
2009/10/3