ガチャリという無機質な金属音。
照準を獲物に向ける。
生き残りたければ、相手を撃て。
ここは、生と死をかけた舞台の上。
演目が終わって、この耳が捉えるのは。
凱旋のファンファーレか、敗戦のレクイエムか・・・。

a Signal fire



「今回の戦争は、長引きそうだとは思わないか?」
「そうだな、まあいいじゃないか、これでようやく仕事にありつけた、しばらくは金には困らないさ」
「まあね、一般市民からしたら平和な世の中に戻ってほしい事だろうけどね」
しかし、そんな夢っばかり言っていられる場合でもないのが現状だ。
人はどうしたって、人と諍いを起こすものなのだ。
それは規模が大きくなればなるほど、どんどん過激な方向に進んでいってしまう。
そして、最終的に武力に頼る、という何とも子供染みた行動に出るのが、戦争の基本。
だが、自分達はその戦争を食い物にしてるような人種なので、これがなければ仕事にならない。
ガチャガチャと、大きな音を立てて、相棒は階段を先に登っていく。
俺よりも背が高く、細身でありながら筋肉質な背中が前を歩く。
カーキ色のロングコートは、どう考えても動きやすい服装ではないと思うのだが・・・。
しかし、狙撃を得意とするこの相棒は、何時もこのコートを愛用している。
自分は、黒を貴重にしたジャケットに黒のパンツと、全身黒尽くめの格好でいる事が多い。
相棒曰く、『急な葬式にも対応できる格好』らしい。
・・・・・・・・・余計なお世話だ。

「ここがお前の待機場所、か・・・」
「ここからだと、下の様子がよく見えるね・・・あの向こうはもう国境になるのかな?」
塔の最上階から、辺りを一望しながらそう話す。
ここから西へ数キロ向かえば、もうそこは敵国になってしまう。
「軍人なんて、やってられない仕事だよね」
「おいおい、闘いを前にした仲間に言う台詞かよ」
「でもそうだろ?僕は好きでこんな事してるわけじゃないんだ、ただその能力があっただけ」
「俺だって似たようなものだけどな」
事実、俺達二人は国の軍に呼び出されて戦争の渦中に出張って来てはいるが、軍人なわけではない。
戦争をする上では、力あるものに需要がある。
俺達二人は、自分の力をビジネスにしてるだけ。
多分、どんな仕事よりもハードな仕事だ。
オマケに、命の保障は無い、ときてる。
それでも、こうやって職業として成り立っていけるのは、それだけこの世界に闘いが溢れているって事。

「手に剣を携えて忠義に尽くす時代は終わったね。
今じゃ、コイツが闘いの主流になってしまってる」
相棒は自分の肩に下げていた狙撃銃を下ろし、組み立てながらそう言った。
それは持ち運びには不便だが、しかし勿論威力のある武器だ。
俺はこれを遣う能力はないが、相棒はこれに長けている。
俺の獲物はジャケットの内側に収めてある、黒光りする拳銃、デザートイーグルである。
「観劇になるくらいに、美しい物語なんていうのも今じゃ中々望めないよね」
「そんな事ない、武勲を挙げた人間なら、何時かどこかの作家が脚色を付けて、感動的な作品を書き上げるだろうよ」
「そうだね・・・でも、誰も本当の闘いは知らない」
「生死をかけた闘いになんて、誰も好き好んでやらかしたりしないさ」
「うん・・・だから、ここで演じられる舞台は誰一人観客の目を楽しめる事なく、幕を下ろす」
「幕開けは・・・狼煙が上がった時か?」
「多分ね・・・・・・・・・いや本当の意味での幕開けはもっと前さ、これは“闘い”っていう演じなくてもいい演目
そこに存在しなくてもい、幻の舞台だ。
その幕開けは、確かに狼煙だろうと思う、けど・・・
・・・まあいや、どうせ僕等は観客にはなれないんだ、自分の役目を果たしていれば、それでいいや」

役目さえ勤め上げれば、何も問題はない。
主役はあえてでも、国王や、どこかの名のある武将や軍師なんだ。
俺達はそこに、ちょっと色を添えるだけの存在。
観劇の中のエキストラ。
名画の中の一点。
そんな存在でしかない。

「まあ、脇役は脇役らしくしっかり演奏しないといけないだろ。
自分のパートも歌えないようなコーラスは、御役御免にされる」
「その通り、そう考えると雇われの身っていうのは随分と楽だよね、他の多くの人間に期待される事もない。
でも主役はそうはいかないもんね、周りは彼等に期待を寄せる。
物語の中心になっている闘いは、そこで演じる者以外、誰も実際に目にしないっていうのにさ」
組み立て終わった狙撃銃を床にしっかりと設置し、スコープを覗き込む。
「持ち場に着かなくて大丈夫?」
「まだ、時間に余裕はある」
「幕開けに遅れたらしょうがないだろ、でも・・・うん、まだ大丈夫かな」
スコープを覗き、先に敵の影がまだ無いのを見て相棒はそう言った。
「僕は、君の事を凄いと思ってるよ」
「何だよ、急に?」
「闘いの渦中に身を置くものとして、僕はある意味卑怯者だ、そうだろ?
遥か後方から、相手に姿を知られる事もなく、人の命を奪っていく・・・
それに比べて君は、自分の身を危険に晒して闘いの渦中に飛び込んでいく・・・」
「だからどうした?俺とお前じゃあ、元々役割が違うのさ、卑怯でも何でもない」
「そうかなあ・・・僕が奪っていく命の重さは、君とは違うよ。
目の前で相手の顔を睨みながら撃たれた弾丸と、遠くから撃ち放たれた弾丸、
その重さは、やっぱり違うと思うな」

重さ
人の命の
奪っていく命の
奪われていく命の・・・

この相棒は、問いたいのだろう

そんな中で、自分の価値とはいか程のものなのか
決して、日の目を見ることはないだろうと思われる
俺達のような、存在は・・・一体
どれ程の、重さがあるものか・・・?

「・・・ねえ、聞いていい?」
スコープを覗くのを止めて、相棒は俺の方を見るとそう問いかけた。
「何だよ?」
「いや・・・昔、人から聞いた話なんだけど。
人が死ぬ前にはさ、命の調べが聞こえるなんて言う奴がいたんだけど・・・それって本当?」
「さあな、俺は今まで聞いた事がない」
命の調べ・・・何度聞いても詩人めいた言葉だと思う。
「話には何度も聞くが、俺みたいな奴には聞こえない唄みたいだ」
「ふうん・・・何時か聞こえたら教えてよ、僕も聞いてみたい」
「死の間際に聞こえる唄だっていうくらいだ、俺が聞くのは自分の死に際に聞こえる唄かもな・・・」
「かなぁ・・・まあ、僕達は戦争っていう舞台にまだまだ立たなくちゃいけないわけだけどさ」
「だな」

腕に巻いた時計を確認する、もうすぐ予定時刻に到達する。
「俺はもう行く」
「そう、じゃあ・・・いい舞台を演じてきてくれよ」
「ああ、生きてたら・・・また会おうぜ」
そう言い残し、おそらく今この場では唯一の知り合いであろう相棒の元から立ち去る。
塔から降りて、自分の指定の持ち場へと向かう。
あと数時間で、東と西の空に開戦の狼煙が上がるだろう。

それを幕開けとして、舞台は始まる。
数多くの、歌声と銃声が覆う、命の舞台の幕が・・・。
一本の煙と共に、上がる。


後書き
・・・・・・・・・自分は、一体何が書きたかったんでしょうか?
よく分からない一品ができてしまいました。
劇中の二人、まず名前明らかになってないし。
二人組みの会話文で構成された小説を書かないようにしよう、と思ってた矢先にこれですし。
その辺は失敗したけれども、意外と世界観は気に入ってるのでアップします。

本当は、一月二十四日に私が溺愛している、と言っても過言ではないV系バンド『jealkb』のライブに行ってきたので(一人で)。
それを受けての小説だった、筈なんだけどな・・・。
“狼煙”は彼等のメジャー初アルバムのタイトルです。
兵隊の話になった理由は・・・ツアーTシャツの柄に、二丁のライフル銃があったからでしょうね・・・。

アップ遅くなって、すみませんでした。
2009/2/8


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