あの人の傍で
朝から仕込みを始めた料理は、既に完成を待つばかりとなった。時計を見れば約束の時間まであと三十分を切っている。これなら間に合いそうだな、と安心したところで部屋に呼び鈴の音が鳴り響く。
ちょっと目を離して誰が来たのかを確かめると、モニターに映っているのは約束した相手で。何でこんな時間に来るんだよ、と溜息を吐きつつも気分は上向きになって、直ぐにオートロックのドアを開けた。
相手が上がってくるまで、三分もないだろう。掃除は昨日の内に終わらせてるし、準備はすっかり整えたはずだが、まだ何か忘れてないかと心配になる。
何せ、付き合って初めて迎えるクリスマスだし。
別に俺や相手がカトリックだとか、そういう事ではないけれど。やっぱりこのイベントは外せるものじゃないだろう。男であってもロマンティックなものを欲する事はあるのだ。それが、恋人と過ごす時間を特別なものにしてくれるのなら尚更。
ピンポーンと再び鳴った呼び鈴の音に、顔を上げて玄関へと向かう。
チェーンロックを外してドアを開ける?酷い寒波の中に立っているであろう恋人を迎え入れるために。
肌を突き刺すような北風で、頬を赤く染めた相手に笑いかけて決めていた台詞を言う。
「Merry Xmas!」
そしたら、少し笑って相手も同じ台詞を返してくれた。
火神の恋人とは誰でしょうか?
黒子編
「メリークリスマス、火神君」
マフラーに半分くらい埋めていた顔あげて、黒子はそう言った。
「寒かっただろ?早く入れよ」
「はい、お邪魔します」
もこもこしていた首元のマフラーを外しながら、黒子は室内に上がった。何重に巻いてたんだよ?と尋ねたら、それくらい寒かったんだと、ちょっと拗ねたように答える。
確かに今日は寒い、雪が降りそうな天気だったし、夕方近くになると気温だってぐっと下がってくる。そんな中を歩いて来たのだから、自然と上着だってぴっちり閉めてしまうんだろう。
着ぶくれしていた相手の上着を受け取って、ハンガーにかけると、温かい飲み物を淹れようと先にかけていた電気ケトルからマグカップにお湯を注ぐ。
「ほら、熱いから気をつけろよ」
「ありがとうございます」
受け取ったマグの湯気を口先で少し吹いて、温度を調節しながら一口飲んだ相手はほっとしたように笑みを見せる。
「バニラの味がしますね、これ」
マグカップに注いだコーヒーを少し揺らして黒子はそう言った。
「分かるか?バニラシュガーってやつ、ちょっと入れてみたんだけど」
「そうなんですか、美味しいです」
黒子はコーヒーをブラックで飲まない。飲めないわけではないらしいが、ミルクや砂糖を入れたものの方が好みに合うんだという。そんなバニラシェイクが好きなコイツのために買ってみたのだが、どうやら気に入ってくれたようで安心した。
「っていうか、ちょっと早くないか?」
約束の時間までまだ余裕でニ十分近くある、だというのにやって来た相手は俺を見て「予定が早く終わったので」と告げた。
そう、黒子は今日は昼からちょっと予定があるからと、夕方の時間に集まろうと決めていたのだ。それが早く終って手持無沙汰になったから、早めに来たという事らしい。
ふーん、なんてそんなに興味なさそうに返答しつつ、何してたんだろうなと自分の恋人に聞けないのは、面倒な奴だって思われたくないからだ。
「そうだ、料理もう少しで出来るから待っててくれよ」
「あっ、ちょっと待って下さい」
キッチンに戻ろうとした俺を押しとどめる黒子の腕、それに従って何があったのか尋ねると、手招きされてソファの隣に着いた。
「どうしたんだよ?」
「いえ、寒いんでもうちょっと傍に居て下さい」
そう言って俺の手を握り締めた黒子の手は、確かにまだちょっと冷たくて。そう言えば手袋は持って無いんだな、なんて思った。
「火神君の手はあったかいですね」
「って言いながら、両手で触るなよ冷たいだろ!」
「いいじゃないですか、減るもんでもないですし」
いや確実に俺の体温が減ってる、そう言い返してなんとか温度の低い手から逃げる。残っている作業を終わらせようとしたところで、ふと腕に違和感を覚えてそちらを見る。
「お前、これ……」
右手に巻かれたシンプルなデザインのバングルと、黒子の顔を交互に見つめる。
「僕から君にプレゼントです。こういうの買った事なくて、だから黄瀬君に紹介されたお店で頼んだら、予約で一杯で、無理言って今日なんとか届けてもらえるようにお願いしました」
だから遅くなってしまったんだと、ムッとしたように言う黒子にそっかと笑って返す。
その右腕にも、自分と同じ物が光っているのに気付いて思わず「それ……」と指差すと。
「僕だっていい加減、君と何かお揃いの物が欲しいです。兄弟の証だって、そればっかりに気を取られるのも癪ですし」
駄目ですか?なんてちょっとむっとした声で言って首を傾げる相手に、誰が首を振れるだろうか。というか、嫌とか駄目とか思うわけない。嬉しくて仕方がないくらいだ。
「ありがとうな、黒子」
「付けてくれますか?」
「当たり前だろ!」
もう一度ありがとうを言って、腕のシルバーを撫でると彼は嬉しそう笑い、そして右腕の拳を差し出して来た。
「これからも、宜しくお願いします」
「おう」
ニッと笑ってそう告げると、彼は満足したように頷いた。
日向編
「おう、メリークリスマス」
軽く手を上げて答える先輩に、とりあえず上がって下さいと中に招き入れると「あーお邪魔します」と言いながらゆっくりと上がった。
「あれだな、WCで鍋して以来だけど……相変わらず部屋、片付いてるよな」
「そうっすか?」
ありがとうございます、ととりあえず礼を言うと。キャプテンは「別に褒めてるわけじゃねえんだけどな」と苦笑いしていた。
「っていうか、先輩。それ何すか?」
それ、というのは相手が抱えて持って来た包みの事だ。赤い袋に緑のリボンが付いている事から、プレゼントである事は分かるし、それが誰宛てかなんていうのも聞く必要はないと思うんだけど。いくらなんでも大きさがおかしい、小脇に抱えるどころか担ぎあげるようにして持ってこられたのだ。隠す事もできないそれが一体何なのか、中身が気になる。
「ほら、お前宛てだ」
「はあ……ありがとうございます」
とりあえず受け取ってみるものの、なんというかふわふわした感触に更に首を傾げる。
「開けてみてもいいんすか?」
「おう」
とりあえず、許可を貰ったのでリボンを解いて袋の中身を開けてみる。そこに入ってみたものは……。
「ぬいぐるみ、っすか?」
「そうだ」
虎のぬいぐるみだった、両手で抱き抱えられるくらい大きいし、しかもちょっとリアルだ。
「何でぬいぐるみ?」
女子でもないのにと思っていると先輩は「この部屋、何もないだろ」と見回してから言った。
「何もないって……」
「ちょっと殺風景だろうが、ちょっとくらい住人的なもんがあった方が落ち着くだろうが」
そうだろうか?つーか、それにしても大きさってもんがあると思うんだけど。まあいいか、この人が作ってる謎の合戦上のセットとかじゃなかったし、あれは確かに人が多いけれどどうしたら良いか困るし。
「そいつ、タイガ2号な?」
「はい……って、え?」
既に名前を決められていたぬいぐるみをソファに寝かせていると、先輩は凄く良い笑顔でそう告げた。つーか「売り場で見た瞬間にお前に似てるって思ったんだよ」とか良い笑顔で言われても意味が分かんねえんだけど。誰だよ、俺の事を虎に似てるとか言った奴。
そんなに似てるかと、2号と名付けられたぬいぐるみを覗きこむと、その口に何か加えている事に気が付いた。
あれっと思って引き抜いてみると、それは小さな袋のようだった。
「あの先輩?」
視線をやると、彼は視線を逸らして赤い顔を見せる。
何でこの人は偶に、こういう事をするんだろうか。自分でもめちゃくちゃ照れてるくせに。
「ありがとうございます、先輩」
「おう」
ぶっきらぼうに答えるその声に、俺が笑うと「何笑ってんんだダァホ」という苛立ちを含んだ声が飛んで来た。
木吉編
「火神、メリークリスマス!」
そう言うと同時に、俺の頭に下りてくる相手の大きな手。ぐしゃぐしゃと掻き回されて「ちょっ、止めて下さい」と言うと、先輩の手が離れた。
「とりあえず、中入ってくれ……ださい。寒かっただろ?」
「おう、じゃあお邪魔します」
満面の笑みで中に入る相手に着いてリビングに入り、ソファを勧めつつお茶の準備をする。
「あれ、まだ五時半か」
時計を確認したらしい先輩がそう言うのを聞いて、どうやら時間を確かめずにやって来たらしい事を知る。どうやら、何か理由があって早く来たわけじゃないらしい。
「んー、火神に早く会いたくて家出たら早かったみたいだな、悪かった」
お茶を持って来た俺に平然と笑顔でそんな事を言うんだから、この人は本当に始末に悪い。
「そっすか」
何て、素っ気なく返すので精一杯だ。それでも相手は嬉しそうに、俺の頭を撫でながら「そうなんだ」なんてのんびり言う。この独特のテンポは少し苦手だ、心臓に悪いから。
でも嫌いではない。
「なあ火神、何作ってくれたんだ?」
美味いんだろ、頑張ったんだろ、凄いな。なんて料理を見てもいないのにどんどん褒めてくれる相手に、段々と恥ずかしくなってきた。
「あの先輩、とりあえずまだ仕上げ終ってないんで。待っててくれ、です」
「そっか、あっ!俺も良かったら手伝うぞ?」
「いいから、座って待っててくれ!」
そう言うとしょぼーんとして、ソファに身を沈める先輩。それが主人の帰りを待つ犬のように見えて、何だか良心が痛んだような気がしたんだけれど、それを断ち切ってキッチンに戻る。
そうして止めていた料理を再開し始めたわけなんだが……。
「なあ火神、やっぱり暇だし何か手伝うぞ?」
五分もしない内に、待てができなくなった恋人が顔を出した。
「もうちょっとで出来るから、待ってろって言っただろ?」
「んー?だって火神に会いたくて来たのに、折角会えても一人だとつまらないだろ。本当は今日だって朝から来たかったのに、部屋片付けたり準備するから駄目って言うし」
そんなの気にしないぞ、とか。部屋なんていつも綺麗だろ、とか。ぶつぶつと文句を言うこの人は、本当に俺よりも一つ年上なんだろうか?たまにそれを疑いたくなるくらい子供っぽい我儘を言うのだ。
「もうちょっとなんだから、少しくらいまっ……」
「だから、待てないんだって。火神」
ぽんと、また大きな手が俺の頭を撫でた。
「アンタ、本当にいい加減にしろよ」
「いいじゃないか、別に」
俺は火神と一緒に居たいんだよな、なんて平然と言ってのけるこの人は本当に何なんだ?
「そうだ火神、先輩からプレゼントあるんだけど」
「そっか、じゃあ後でゆっくり貰うんで」
おそらくは俺の気を引きたいだけなんだろう先輩を軽くあしらうと、ムッとしたのか頭を撫でる手が後ろから抱き締めるものに変わる。
「えー……今でもいいだろ?」
「今は、手が離せないんで」
そう返したら、彼は「今がいい」と言いながらちょっと手を離すと、首元で何かされている感覚が後ろから伝わって来る。
「できたぞ」
なんて言葉と一緒に下げられたのは、シルバートップのペンダントだった。赤い曲線の模様が入ったそのプレートを見つめていると、ふと背後から抱き着く相手の指にも同じ模様のアクセサリーが光っているのに気が付いた。
食い入るようにその二つを眺めていると、後ろから「どうだ?」と落ち着いた声が尋ねてくる。
「えっと、あの……ありがとうございます」
「うん」
ああ、きっとこの人はとっても嬉しそうな顔で今、笑っているに違いないと思いつつ。作業していた手を止めて、その手を握り返してみた。
水戸部編
メリークリスマスという挨拶に、先輩は優しく微笑んで頷いてくれた。
「寒いんで、早く中入ってくれです」
手を引いてそう言うと、彼は一礼してから部屋に上がった。
リビングに案内して上着を受け取ると、一緒に持って来た紙袋を差し出された。
「これ何すか?」
そう言って覗きこんだら、そこには先輩が作って来てくれたらしい料理の入ったタッパーが入っていた。
「ありがとうございます、わざわざ持って来てくれたんすか?」
俺が前に食べて好きだって言った物ばっかりが詰まってるそれを見て、思わず笑顔が零れる。それと同時に、何だか申し訳ない気持ちも少しだけ沸き上がってくる。
そんな俺の心を見透かしたのか、先輩は困ったように笑って鞄から愛用のエプロンを取り出してキッチンへと向かう。
「あの先輩、あとちょっと何で待っててくれていいですよ?」
そう言っても彼はゆるゆると首を横に振るだけだ、それならばと俺も隣りに並んで残りの調理に取りかかる。
彼の方が手際がいいので作業もさくさくと進んでいく。いつもは広いキッチンも、俺や先輩みたいなそこそこな体格を持った男が二人立つと少し手狭に感じる。それでも、折角だから隣りに立って作業したいと思ってしまうわけで。
「ありがとうです、あとはもう温めるだけなんで」
お茶でも入れようと、コンロにポットをかけたところで先輩が俺の頭をそっと撫でてくれた。
「何すか?」
「今日はありがとう」
ふいに笑った相手からそう告げられて、顔に熱が集まる。
「いや……俺の方が我儘言って、先輩に来てもらったようなものなんで」
先輩の家なら、クリスマスだって家族と過ごすものなんじゃないだろうか。そう思うと、その大切な一人を欠けさせてしまったのが、なんだか申し訳ないのだ。そんな事を考えていると、先輩は優しく微笑んで俺の頭を撫でて「俺も会いたかった」と告げる。
「いや、つーかその……二人でとか言ったのが申し訳ないつーか」
「俺もそうしたかった」
そう言われてしまうと、何とも反論できなくて。赤くなった顔を隠す様に目の前の作業に没頭しようとした。
「とりあえず、ちょっと休みません?」
先輩のために淹れたお茶を片手にそう尋ねると、彼は頷いてリビングへと移動した。
隣り合って座り、持って来たお茶を差し出すと。彼が下げていた鞄から箱を取り出して俺の前に差し出した。
「俺に……すか?」
小さく頷く相手に「ありがとうございます」と言って受け取る。
飾り気のないその中に入っていたのは、赤と黒のツートーンカラーの時計だった。
「持ってないよね?」
「あっ、はい」
「学校でつけてても大丈夫でしょ?」
確かにその通りだけど、こんな良い物貰っても良いんだろうか?そう尋ねると、彼は苦笑いして「受け取って欲しい」って言った。
「ありがとうございます、先輩」
そう言うとちょっと不服そうな、不満そうなそんな顔になった。
「どうかしたのか、です?」
「名前」
名前と言われ、しばらく考えて……ああ、そう言えば前にも言われたのだと思い出す。
「凛之介さん、ありがとです」
そう言ったら満足したみたいに微笑んで、俺の手を取った。
黄瀬編
「メリークリスマス、火神っち!」
そんな声と一緒に、満面の笑顔の黄瀬が俺に抱きついて来た。ここが俺のマンションで、人目がまだある時間帯で、何よりも自分が顔の知られている人間だって事を、コイツはもっとちゃんと考えた方がいいと思う。
「分かった、分かったから黄瀬!とりあえず離れろ、寒いから早く上がれ!」
そう言うと抱き締めていた腕を緩めて「じゃあお邪魔します」と、嬉しそうに返答して上がり込む。
「ごめんね火神っち、今日も撮影が入っちゃって……」
折角のイブなのにと不服そうな黄瀬に、「気にするなよ」と返す。
「別に、終ってからこっち来てくれたし。お前に会えたから俺はそれでいいよ」
「うー……でも、どうせなら火神っちと一緒にクリスマスデートしたかったッス。遊園地とかテーマパークとか、イルミネーション見に行ったりとかしたかった」
そう、本当は撮影が終わったらそういう所に行かないかと黄瀬が誘ってくれたのだが、それは俺がいいと断ったのだ。
何だかんだ言っても黄瀬は顔が知られてる、そんな相手が人混みの中に入るとどうなるのか。簡単に予想できるだろう。
だから、俺はそういう所には行かなくてもいいって言ったのだ。折角なのにと言い渋るコイツが恋人らしいクリスマスを演出したいと考えるなら、俺は黄瀬に本当に心から安心して笑って欲しいと思ったのだ。
「俺の作った料理でお祝いは、嫌なのか?」
「そ、そういう意味じゃないッス!火神っちの作る料理すっごい美味しいし、俺大好きッスよ!
でも、本当に本当に良かったのかな……なんて、やっぱ思うわけで」
「だから良いんだって言ってるだろ、俺がお前をおもてなししたかったんだ」
そう言い返すと、黄瀬は嬉しそうに笑って「ありがとう」と言った。
女性に対するあしらいは上手いのに、俺に対してはそれが上手く出来ないらしい恋人の、少し情けないけれども愛おしいと思う欠点を目にして、俺は笑う。
「なら、ちょっと待っとけよ。もうすぐ飯もできるし」
「はいッス。あっ、そうそうこれお土産ッス」
そう言って差し出された紙袋の中身は、どうやらケーキらしい。今日の差し入れで貰った物の残りだ、との事だが。黄瀬曰く、俺の好きそうな味だったから貰って来た、との事だ。コイツのこういう感覚は良く当たっているので、ありがたく頂く事にする。
迎え入れた相手をダイニングの方に待たせて、料理の仕上げへと入って行く。
キッチンでもう一度手を洗っている最中に、初めてエプロンのポケットの膨らみに気が付いた。そっと取り出してみると、手に収まるくらいの小さな箱にリボンが付いていた。
「黄瀬……?」
「プレゼントくらい、受け取ってくれるッスよね」
キッチンの入り口に立っていた相手が、格好付けた顔で言う。いや、実際にかなりカッコ良いから正直、顔が熱くなるのを覚えつつ。「これ何だよ?」と小さな声で尋ねる。
「開けてみて欲しいッス」
それだけ言う相手に促されて箱を開けると、そこに収まっていたのはシルバーのリング状のアクセサリーなんだが。
「ピアス?」
「ううん、火神っちは穴開けたくないんでしょ?」
そう前にコイツに勧められてなんとなく、怖くて拒否したのは覚えている。
「だから探したんッスよ、イヤーカフ」
三つ連なったリングに黄色の石がはめ込まれたデザインのそれを取り出すと、黄瀬は俺の耳にそっと挟みこむように取りつける。
「うん、似合ってるッス」
満足そうに笑う相手にありがとうを言って、頭を撫でてやると嬉しそうにまた抱きついてくる。
「今日はゆっくり過ごそうな」
「はいッス」
そう言って落ち着いて笑うコイツの、格好付けてない本心からの笑顔が好きだ。
緑間編
「メリークリスマスなのだよ、火神」
返答する緑間に思わず噴き出す。
「……何なのだよ」
「いやお前がメリークリスマス言うとか、ちょっと意外で」
思い出してまた笑うと、緑間は凄く癒そうに顔を歪めて「いいから中に入れてくれないか?」と零した。確かに、外はかなり冷えて来ている、早く入れよと笑顔で迎え入れると「お邪魔するのだよ」と馬鹿丁寧に挨拶して上がった。
「そう言えば、今日はラッキーアイテムどうしたんだ?」
「ちゃんと用意しているのだよ」
そうは言うものの、彼の手にはいつもの謎の持ち物はどこにも無い。どうやら、そこまで大きくない代物らしい。
「っていうか、何で約束よりも早く来たんだよ?」
「偶然なのだよ。偶然、いつもよりも練習が早く終わったから、早くに家に帰る事ができて。お前の家に行く準備が早く出来たから家を出たら、駅に早く着いて、早く電車が来たからそれに乗ったら、お前の家の近くの駅まで来てしまったから、する事もないから来ただけなのだよ」
「……そうか」
「そうだ」
相変わらず意味が分からない奴だな、と思いながら受け取ったコートを吊っていたら携帯電話が鳴った。突然の電話に誰かと思えば緑間の相棒である高尾からだった。
『ヤッホー火神、メリークリスマス』
「おうメリークリスマス、どうしたんだよ急に?」
『うん?いやさ、真ちゃんさ火神の家に着いた?』
「ああ、さっき着いたけどさ」
『きっと真ちゃんの事だから、正直になれてないんじゃないかななんて思って。という事で、俺から火神にクリスマスプレゼントな!』
プレゼントって何だよ?と尋ねると、電話の向こうで面白そうに笑う高尾の声が響く。
「おい火神、それは誰からだ?」
緑間からの質問に、正直に答えるよりも前に電話の向こうから「実はな」と話を続けられた。
『今日の真ちゃんってば、火神に会えるのが楽しみ過ぎて、部活の練習終ったら有り得ないくらいのスピードで帰り支度して、凄いスピードで俺を家まで走らせて、そこから五分くらい待たされて、今度は火神の家まで走らされたわけ。
本当にさ、もう少し早く走れないのか高尾!なんて、とにかく俺の事急かしてくんの。それくらい、真ちゃんは見えないところでも火神の事を超愛しちゃってるって事』
「はあ、えっ……っていうかお前、来てたんなら上がってけばいいのに」
相手の話を理解して最初に出て来たのは、恋人が俺を思ってくれてるって事よりも、ここまで我儘な男を送り届けたらしい彼の仲間に対する心配だった。
『そーんな野暮な事するわけないでしょ!恋人同士の特別な日に、一人で馬に蹴られるのはゴメンなんでね。俺は友達のとこでやるクリスマス会に呼ばれてるんで、これで失礼!』
と言うと切れた電話を、伸びて来た緑間の手が奪い取る。既に通話終了の音が鳴り響いてるのを聞いて、凄く不機嫌そうに俺を睨みつけると。「高尾に何を言われた?」と言った。
「お前が俺に会いたがってた、って話だけど」
なんてニヤニヤ笑いながら言うと、不機嫌そうに顔を歪めた緑間がふんっと息を吐き出した。
「怒るなよ、そろそろ飯もできるし」
「べっ、別に怒ってるわけでも照れてるわけでもないのだよ」
「照れてるのかよ?」
からかい交じりにそう言うと、緑間は耳まで顔を赤く染めてそっぽを向いてしまった。
本当に仕方ない奴だよな、なんて思いつつ完成した料理を皿に盛ってテーブルへと運び始めると、緑間がキッチンに現れ「それくらい手伝うのだよ」
「そっか、ありがとうな」
相変わらず目は合わせずに、渡された皿を受け取ってテーブルに運んで行く相手を見つめて、どうやって機嫌を直してもらおうかと考える。まあ、自分から話しかけてくるくらいだからそんなに機嫌が悪いわけではないんだろう。
なんて考えながら、メインディッシュの皿を持ってダイニングに入ると、俺の席の前に小さな箱が乗っていた。
「えっ……あの緑間?」
声をかけると真っ赤になって相手は視線を外した。
「……今日のラッキーアイテムなのだよ」
「何が?」
「クリスマスプレゼントなのだよ!お前が受け取らなければ、俺は今日の人事が尽くせないのだよ!」
ああ、そういう事かと思って、俺は笑う。
「Thanks、緑間」
確かに高尾、コイツは正直な奴じゃないけど。最近な、気付いたんだ。
ややこしく見えて、実はひねくれてるだけで真っ直ぐな良い奴だよな。
青峰編
「よう、メリークリスマス」
そんな声と一緒に遠慮なしに上がり込んで来た相手を、苦笑いしつつも受け入れる。
寒かったんだろとは聞かなくても分かる。早々にリビングへと向かう相手の足取りを見れば、どれくらい我慢していたのか一目瞭然なのだ。コイツは意外と寒いのが嫌いなのだと最近知った。
「やべぇあったけえ」
暖房の付いたリビングに我がもの顔で座って居る相手を見つめ、苦笑いするのもいつもの事だ。
「お前が早く来るから、まだ飯出来てないんだ。だからもう少し待ってろよ」
「んー分かった」
コイツが好むようなグラビアなんて物は置いてないけど、まあ月バスは置いてあるし、本当に暇だったらDVDとかを適当に回して見始めるだろうから、とりあえずは放置でいいだろう。下手に構っても、気が乗らなければ無視されたりするのが常なのだ。
青峰を一事で表すと猫みたいな奴なのだ。まあ、猫のように小型で可愛げがあるわけではないので、ネコ科の大型動物と言った方がいいのかもしれないけれど。でもまあ、その行動の仕方はやっぱり猫みたいだ。
そうやってしばらく放置していると、飽きたらしい青峰が「まだ終わらないのか?」と声をかけてくる。
「あとちょっとかな、つーか暇なんだったら何か手伝えよ」
「えー……分かったよ」
てっきり嫌がるのかと思ったら案外、あっさりと了承の言葉を貰ってキッチンに現れた相手にとりあえずテーブルの上を拭いて来てくれと、布巾を渡す。
そうこうしている内に完成した料理を、つまみ食いして行く青峰をキッチンから追い出したりしつつも、楽しく料理を運んで。ようやく約束していた夕食の時間になった。
「じゃあ、メリークリスマス」
「ああ、メリークリスマス」
格好付けているけれど、乾杯で鳴らしたグラスに入っているのは二人共ジュースだった。酒を持ち込もうとした相手に、流石にそれは駄目だと俺が怒ったのだ。
「やっぱ、お前の飯美味いわ」
「そうかよ」
肉を頬張ってそう言う青峰に、笑いかけながらも俺も料理に箸をつける。
クリスマスだからってちょっと豪華なものにしてみたんだけれど、それは相手にも伝わっているらしい。
「なあ火神、もう俺に一生飯作れよ」
「……いきなり何だよ?」
「んー、だってさお前の飯うめえんだもんよ、毎日食っても多分飽きないわ」
そうかよと笑って軽く答える俺が、どうやら青峰には不満らしい。
「おい、ちょっとは真面目に考えろよ」
「真面目にって」
「あのなあ、人が折角プロポーズしてんのに無視されたら流石にキレるだろうが」
「プロポーズってお前……はあ!?」
いや、よくよく考えれば青峰の文句はプロポーズに使われる物で正しい。けれど、まさかこのタイミング、この年齢でそんな言葉を投げられるとか思うか。思わねえだろうが。
そう言い返してやると、ムッとした青峰がポケットの中から何か取り出した。
「給料三カ月分は、もうちょい待て。とりあえずそれ、予約な」
左手を取られて薬指にすっぽりとはまった指輪を見つめ、どんどん顔に熱が集まって来る。
「お前、何気に恥ずかしい奴だよな」
「ウルセー!つか、そこはもっと何か可愛く嬉しがれよバ火神!」
そう噛みつく相手の頬も、やっぱり赤い。何だよ、自分だって恥ずかしいって思ってるくせに。
でもそうだな、こうやって俺を喜ばせようとか考えてくれてる。そういうお前とか、滅茶苦茶可愛くて好きだぞ。
「青峰」
「んだよ?」
「ありがとう」
「……最初から素直にそう言えっつの」
紫原編
「めりーくりすます、がみちん」
それはそれはタルそうな口調でそう言うと、紫原の大きな腕の中に包み込まれた。
「ちょっ、おまっ!紫原、苦しいって!」
滅茶苦茶強い力で抱き締められて、離せと言ってみるものの相手は聞く耳を持たないらしい。
「んー?いいじゃん、会えるの久しぶりだしーがみちんを補給したいんだしー」
「久しぶりって、お前WCで会っただろうが!」
そう言って何とか離して、家の中に入れる。
「あー、何か凄い美味しそうな匂いする」
リビングに着いたところで、鼻を動かして嬉しそうに俺に向かい合う。
「料理作ってる最中だからな、つーかお前が早く来るからまだできてないんだけど」
「ふーん、がみちんお腹空いた」
「いや、だからまだ出来てないって……仕方ないから、クッキーでも摘まむか?」
紫原に対して、というよりもコイツの食い気に対しては、正論で返すよりは好きな物を与えた方が得策なんだとタツヤから教えられている。始めはそんなに甘やかしてはいけないんじゃないか、と思っていたが。今ではすっかりその手で懐柔する事に慣れた。
「クッキー!食べる」
クリスマス用に作っておいたクッキーに手を伸ばす相手を見つめ、何か飲み物も淹れてやろうとレンジで牛乳を温める。
コイツが来る時のために買っておいたココアにシナモンパウダーをちょっと入れて、出してやると「ありがとー」とふにゃっとした笑顔で言う。基本的に甘い物を与えておけば、従順で優しい奴で居てくれるというのも経験済みだ。
「ねえ、ねえ約束通りケーキも作ってくれた?」
「勿論だ。あっ、言っとくけど食べるのは夕飯の後だからな?」
「分かってるって、別につまみ食いしたりしないし」
ああ、成程つまみ食いする気だったのかと溜息を吐き、とりあえず夕飯が終るまでコイツはキッチンに入れないでおこうと決めた。
「じゃあ、俺はまだ料理しなきゃ駄目だから。それ食って待っててくれよ」
「んー。あっ、がみちん待ってよ」
そう声をかけられて、どうしたと尋ねると。見上げる位置にある相手の手が俺の髪に触れて、何かしている。
「よーし、いいよ」
「いいよ、ってお前。何したんだよ?」
「がみちんスッゲー似合ってるしー」
何がと尋ねるよりも鏡を見た方が早いと、洗面所にある鏡に自分の顔を映して、思わず引きつった。
「おい紫原、お前コレ……どういうつもりだ?」
何で男の俺の髪にヘアピンとか付けた、しかも赤い花の石が付いてるやつを。
「がみちん料理する時に髪とか邪魔じゃないかな……って、思って。それ、俺からのプレゼントね」
「邪魔になるわけないだろうが、こんな短いのに!つーか、使わないもんプレゼントにすんなよ」
「えー、でもめっちゃくちゃ似合ってるよ。スゲー可愛い」
可愛くてたまるか、そう思ったものの。どんなに怒っても、コイツにはどうしようも無い事だったと思い至って溜息を吐く。
「全く……付けとけばいいのか?」
「うん、俺のために付けといてよ」
お前のためにって、こんな安い事でいいのかよ?そう思いつつも、これくらいの我儘ならばまあいいかと許してしまう。
こんな事してるから、コイツに関わる奴等は皆、甘いんだって言われるのかもしれない。
でも仕方ないだろ、何故か気が付いたら甘やかしてしまうのだ。
「Thank youな、紫原」
俺の苦笑にも満面の笑みで「いいよー」なんて返してくれるコイツが、何かやけに可愛いのが悪い。
赤司編
「メリー・クリスマス。大我」
「随分と早かったな、まだ約束の時間前だけど」
「一本早い新幹線に偶然乗れたんだよ」
それなら、連絡してくれたら迎えに行ったのに。そう言ったら赤司は苦笑いして「君だって忙しいだろう?」と告げた。
初めて会った時はヤバい奴かと思ったけれど、何だかんだで、赤司は人の事をちゃんと考えて行動している。
その上で、ちょっと行き過ぎた態度を取るのだから始末できないけれど。
まあ自分が慕われてるって分かった上での行動なんだろうけどな……。
部屋に上げて冷えた体を温めるためにお茶を淹れてやると「ありがとう」と言って、両手で受け取った。
「前よりも淹れるのが上手くなったね」
「そうか?」
「ああ、美味しいよ」
そう言われて嬉しいと思いつつも、肝心の料理がまだ出来ていない事を謝ると「そんな事、気にするな」と直ぐに返ってきた。
「僕が来るのが早かったのが悪いんだろう、お前はそういう所の準備は抜かりないからな」
「悪い……もうちょっと待ってくれ」
「ああ」
そう言って微笑む赤司を残して、再びキッチンに戻る。
クリスマスとはいえ、和食が好きな赤司ために用意した料理の殆どは和食なのだ。あまり作り慣れていない事もあって、調理に手間取ったものもあったりする。
「本当、君は良いお嫁さんになりそうだよ」
そんな俺を眺めながらリビングの方からそんな声が飛んできた。
「お嫁さんって……こんなゴツイのが嫁だと、旦那のが大変だろうが」
面白い冗談だなと笑いかけると、相手は至って真剣な顔で「いつでも嫁いできていいんだよ」なんて言う。
「ったく……じゃあ赤司が大きくなったらな」
「大我、それは僕に対する当て付けかい?」
ちょっと怒りを込めた冷たい表情で言う相手に、苦笑いしてわるいと謝る。
「別に、お前の背の事を言ったわけじゃ……」
「そうかい、でも……ちょっとは考えたんだろう?」
「まあ、ちょっとは」
「はぁ……お前のその正直なところは、美点でもあるし難点でもあるな」
呆れたように呟くけれど、どうやら怒ってはいないらしい。
完成した料理を手にダイニングの方に行くと、俺の顔を見た赤司が手招きした。
「何だよ?」
「いいから、ここに座ってくれないか」
言われた通り赤司の前の床に腰を下ろすと、ポケットから何かを取り出して俺の首へと巻き付ける。
「お前は自由だからな。僕を置いて、勝手にどこかに行くなよ」
そう言って、俺の首を撫でるその手が付けたばかりのチョーカーをなぞる。金属製なのだろうが、肌に触れる温度は少し熱い気がする。
「俺がどっか行くわけないだろ?」
「どうだろうね、先の事は分からないだろう?」
「お前の目でも、分からないのかよ?」
「人の心変わりだけは、昔から誰にも分からないのさ」
赤司はふっと笑ってそう言った。
その手を取って「ありがとう」と言うと、彼は穏やかな顔で頭を撫でてくれた。
高尾編
「メリークリスマス火神!」
それはもう満面の笑みでそう言った高尾は、寒かったと白い息を吐く。
「ほら早く入れよ」
「ありがと、いやぁ……流石にここまでチャリは疲れるね」
まさか、あのリアカー付きのやつで走って来たのかと思ったが、それではなく今日は愛用してるマウンテンバイクらしい。
「流石に、俺だって休みの日まであれを漕ぐのはゴメンだわ」
リビングに通した相手に温かい紅茶を出すと、嬉しそうに一口飲む。
「あー、染みる」
「それ紅茶に使う言葉だっけ?」
「いいじゃん、つーかマジで心折れそうなくらい寒かったんだもん。俺の妹ちゃん達のクリスマス会で、一発芸披露した後で疲れてるし」
「お前……一発芸って何したんだよ?」
「んー?真ちゃんのモノマネしながら、美少女系アイドルのヒットソングメドレーを歌った」
本当にコイツは何してんだよ、つーかそれ緑間が知ったらどうなるか気になる。
「つーかさ酷くね?俺が恋人とクリスマス祝う、って言ったら。アイツ等ってばリア充爆発しろとか言ってくんの、でとにかく早く抜けてやろうって決めて……なんとか吹っ切って来たわけ」
「ふーん、なんつーか大変だったんだな」
「そう大変だった!つー事で火神、褒めてくれよ」
ご褒美欲しいなんて言う相手に、思わず苦笑する。全く、コイツってどんな神経してんだろ?
でもまあ、もたれかかって来た相手を受け入れてしまう。お前って甘いよな、なんて呟きに分かってるよと小さく返す。
「なあ火神」
「ん?」
俺にもたれかかっていたのが、完全に膝枕する形になっている。穏やかな顔で横になった相手は、ちょっと口角を上げて笑うと、俺の頬に触れて、それから俺の髪に触れて「なーんか、こうしてると落ち着くわ」なんて言う。
「あのなぁ、お前はそれでいいかもしれないけど。俺は身動き取れないし、つーかまだ料理終わってないし」
それから、と続けようとした言葉は遮られた。伸びてきた高尾手が俺の腕を取って、黒い石のブレスを付けたからだ。
青みのある深い黒い石は、光にかざすとすっと一筋の線が浮かび上がってくる。
「それな、ホークスアイって石なんだ」
俺の腕を撫でて、高尾は言う。
「へえ、これ何で」
「幸運のお守りってやつ、俺が火神を護れるように」
コイツは俺の分身だと思って、なんて笑って言う相手に、どこまで本気なのかなと考えてやめた。
「ありがとうな、高尾」
お前が大好きなエース様以外の事を考えてくれてる、それだけでも充分なくらい俺、幸せだ。
氷室編
「Merry Xmas、タイガ」
そんな声と共に柔らかく抱き締められ、両方の頬に一度ずつ軽いリップ音が鳴らされる。向こうで慣れた挨拶も、久々だと少し恥ずかしく感じる。
「タツヤ早かったな」
「ああ、あんまり天候が良くないみたいだったから、早めの新幹線に乗ったんだ。遅れたらお前の事、かなり待たせちゃうだろ?」
そういえば秋田はかなり寒いんだっけ、雪は凄いんだと前に電話で言ってた気がする。
それを尋ねると「向こうはホワイトクリスマスだよ」とタツヤは笑った。
「アツシが雪にシロップかけたら美味しいかな、なんて言い出してね。皆で止めたりしたよ」
向こうの学校の出来ごとを思い出して笑う相手に、俺も思わず笑みを零す。何だかんだで、陽泉のメンバーは仲が良いんだというのは、彼と再び連絡を取るようになってから知った。
預かったコートをハンガーにかけ、俺は紅茶を淹れにキッチンに入る。この間、タツヤがお勧めだと言って送ってくれた物が美味しくて、折角泊まりに来るならと個人でも注文してしまったのだ。
「はい、寒かっただろ?」
紅茶の入ったマグカップを受け取ると、彼は「秋田に比べれば、まだ温かいよ」と微笑んだ。
「そんなに向こうって寒いのかよ?」
「少なくとも東京よりはね。でも、俺だって寒いのはあまり好きじゃないからね」
よく名前負けしてるなんて言われる、と苦笑いする兄貴分は紅茶を一口飲んで、ほっと息を吐いた。
「物凄く冷える日なんて、どうしてこっちに来たのかと後悔するくらいだよ」
そう言って笑う相手は、しかしそれは冗談だと告げている。
きっとタツヤは陽泉に行って良かったと思ってるし、きっと満足してるんだろう。だから「もしもこうだったら」なんて考えるのは、ありえない事なんだ。
いくら考えても、彼が俺の傍に居る生活は無いんだろう。
「タイガ、ちょっといいかい?」
そう考えているとふと顔を覗きこまれた、変な顔をしていなかった事だけを願いつつ「何だよ」と言うと。ソファに座る俺の前にやって来て、床に恭しくタツヤが膝をついて座った。
プロポーズでもするのか、というくらい丁寧な仕草で座っていた俺の足を取る。
「ちょっ、タツヤ?」
俺の足を優しく撫でて、彼はポケットから取り出した細身のシルバーのチェーンが巻きつけていく。
蛍光灯の光を反射して輝くのは、シンプルなデザインのアンクレットだ。
そのままつま先とかかとを支えられ、そっと足の甲にキスされた。
「タイガ、愛してるよ。だから……離れてても俺のものであってくれ」
「バカじゃねえの?んな恥ずかしい事しなくっても、俺は別に」
今更、タツヤから離れる事なんてないだろう。
もう二度と。
「そう言われても、証が欲しいものなのさ」
これだけじゃ足りないんだと、首から下がったチェーンを差して言う。
「これ以上が欲しいんだよ」
「いくらだって、やるよ」
そう言って笑いかけると、嬉しそうに微笑んで俺の隣りに再び腰を下した。
「じゃあ、どうしようか?」
「とりあえず、まずはディナーな?」
PG組による反省会
今吉「という事で、ワシ等が召集されたで!」
笠松「いや、何で俺達?」
伊月「確かに」
今吉「今回のクリスマスネタな、タグにはキセキ火と誠凛火と相棒火ってあるやろ?」
笠松「ああ、確かに」
今吉「そうやねん、でもワシも笠松も伊月も出てへんやん?これ、作者がネタ切れになったのと、時間が間に合わんかったかららしいわ」
笠松「で、最後にわざわざ俺達を呼び出したのかよ?」
伊月「別にそんな事しなくても、怒ったりしないんですけどね」
今吉「いや、誠凛火に関してはまだ人数が揃ってるから誤魔化しはきくやろうけど、相棒火に関しては二人しか間に合わんかったから申し訳ない、とか言ってたわ」
笠松「それ以前に。俺も今吉も、本編でそんなに火神と絡みないだろうが」
今吉「だからこそ新境地を開けるためにやりたかったみたいやわ、まあ次に何か機会があれば挑戦したいなあ……とか本人は思ってるらしいけど」
伊月「というか、昨日から書き始めたのが絶対に悪いですよね」
今吉「ギリギリでも間に合えばそれでOKやろ!」
笠松「というか、何で今吉が作者の言葉を代弁してんだよ?」
今吉「ああ、それは作者が関西人やから」
笠松・伊月「それだけ?」
今吉「それだけやで。
ほんなら、次はちゃんと計画持って気合い入れて書きや?ワシ等の出番ないとか、ほんま勘弁な?」
という事で、なんとかギリギリ間に合わせました。
火神の誕生日ネタと被ってるような気がしますけれど、まあいいんです。
いや、もう本当にね。書いててどうしてそうなった!ってなりましたよ、色々とね。
2012年12月25日 pixivより再掲