これでお前は俺のモノ。
欲しいモノ]
「この世で欲しい物を全部手に入れた奴って、どんな気持ちだと思う?」
そう尋ねると、俺の腕の中でビクッと震える体。安心させるように優しく撫でる。
大丈夫だぞ、別にお前を困らせる気なんて最初からないんだ、これはただの暇つぶし。俺の、独り言に過ぎない。
だから聞けよ、いいから最後まで。
「全部が手に入った瞬間は、スッゲー幸せだぜ。この世界で一番、そいつは幸せだろうな。でもな、その内に嫌になってくる。だって欲しい物は全部持ってるんだ、何もいらないなら働かなくてもいいし、生きてるのも面倒になってくる。こうなったらそいつは世界で一番不幸だ、退屈で退屈で仕方ない、これって生き地獄ってやつだろ?」
何も見ても手ごたえがない、人を羨ましいと思わない。人が何を言おうともどうでもいい。求めるものなんて何もない、それは全て、ここに揃っているんだから。
こんな退屈な日常はない、死んだ方がマシだとは思ったけれど、それもまた面倒だ。
もしかしたらまだ、手に入れてない物があるかもしれない。
何かを欲するその渇望が体に伸し掛かって、消費するだけの日々を繰り返していく。まだ何かあるんじゃないか、もっとあって欲しい。欲しい物が。
本当の意味で満足させてくれる物が、まだあるんじゃないかと。
「そんな気分だったんだよ」
「青峰」
俺を呼ぶ火神の頭を撫でて、抱き寄せる腕に力を込める。腕の中に大人しく収まっている相手は、俺の背中に腕を回した。こうやって俺が弱いところを見せると優しくしてくれるって、実は知ってる。同情してるだけかもしれないけれど、まあいいさ、何だって。
それなら、そこに付け込んでやるだけだから。
最初から俺に従うことはしなかった、今も完全には従っていない。彼はずっと成長していく、どんなに手に入れてもまだ先がある、手を伸ばしても届かない先がある。全てを手に入れられない。
完璧だ。
これこそ、俺が手に入れなきゃいけないモノだと思った。
「なあ火神、お前は誰のものだ?」
そう尋ねるとすぐに俺の名前を呟く、伏し目がちの相手の顔を見つめて、もう一度と言う。
はっきり言え、俺の目を見て宣言しろ。
顎を上げてキスできそうなくらい至近距離で、既に癖になった悪人面と罵られる笑みで告げると、恐々と俺を見つめる。
何だ?言いたいことがあるなら、言ってみろよ。
「ほら、ちゃんと答えろよ」
グッと強く抱き寄せると、至近距離でかかった甘い声。涙の膜が張った目で、何かを訴えかけるように睨みつけられた。
「俺は、青峰の……大輝のものだ」
「そうだよな?」
良く出来ましたと微笑んで頭を撫でて額にキスを贈ると、くすぐったそうに身をよじる。でもここから逃げ出すことは許さない。諦めたのか、それとも甘えたくなったのか、答えるように頬へキスを返してくれた。
「な、だから……もう」
ぎゅうっと爪を立ててくる。
「そんなに我慢できないか?」と言った後で、今の状態でもう、そろそろ三十分以上は経つことに気付いた。
一度もイカせないまま散々後ろを弄って、グチャグチャになったところで俺のを突っ込んで、そのまま何もしないでただ抱きしめていた。コイツの内側がずっと物欲しそうに熱く締め付けてくるのも、俺のモノの形にピッタリと寄り添ってくるのも嬉しくて、幸せで、ただ食い荒らすのも勿体ない気がしたのだ。
抱き締めた火神の顔はそれはもう快楽に飢えたイイ顔で。どうせなら写真にでも残してやろうかなと思って、俺の携帯電話に手を伸ばそうとすると。どうやらイイ所に当たったらしく、悲鳴に似た声を必死で呑み込もうとする真っ赤な火神を見れた。
携帯電話のカメラでその可愛い顔を撮った後、「なあ火神」と意地悪く声をかけて、落ち着こうと息を整える相手に向けて質問する。
「なあ火神、今日はどこで誰と何してた?」
約束したよな、家に真っ直ぐ帰って来るって。
俺と一緒に過ごすって、約束してたよな?
本当はどこにも行かせたくない、人の目に触れさせたくない。だけど、一人の高校生が失踪したら世間は意外と煩いから、体裁だけは保って学校は行かせてやる。
だけど、それには条件がある。
誰にも触れるな、触らせるな。
誰とも喋るな。
視線を合わせることすら、許さない。
俺のことだけ考えて、俺にだけ声を聞かせて、俺だけと触れ合って、俺だけを見てればいいんだ。
そうだろ?
いや、そうしなきゃ駄目だ。
「ずっと部活サボって。お前んとこの主将に怒られたりしなかった?あの監督に文句言われなかった?」
それとも、アイツに……。
「テツは何て言ってた?」
ビクッと怯えたように俺を見つめる火神、コイツはバカ正直な奴だ。何でもすぐに顔に出るから嘘も隠し事もできない、今日だってどうせテツと接触したんだろ。
俺との約束破って。
「テツがな、お前が帰って来る前に電話して来たんだ。これ以上、火神君を苦しめるのは止めて下さい。これ以上、彼を脅して従わせるのであれば、こちらにも考えがあります。だってよ」
大きく見開かれた目には、驚きと同時に怯えや恐怖が包まれている。
「なあ火神、俺ってお前のことそんなに苦しめてるのか?脅してるつもりもないし、別に従わせてるつもりもないんだけど、お前はそう思ってなかった?」
全部言い終わる前に、火神は激しく首を横に振る。ドクドクと相手の体の中から響く強い鼓動が、触れた肌から直接俺の中にも流れ込んでくる。
何を焦ってるんだよ火神、何に怯えてるんだよ、何を怖がってるんだよ?
お前には俺しかないだろ。ならそれ以外なんていらないじゃないか。
でも、お前は馬鹿だからすぐに他に目移りする。優しくされれば尻尾振って付いてくだろう、それは許さない。
「やっぱ、外野が邪魔だよな。お前って無駄に人に好かれてるし、俺から奪い取ろうとする奴もいるみたいだし」
お前は馬鹿だから、何度だって教え込んでやるよ。俺が一番だって。
でも、お前をたぶらかした奴だって悪いだろう?
黒子は勿論、一番危険。火神の学校の奴等もかなり面倒。
それだけじゃなく黄瀬もなんだかんだで煩い。
緑間はやけに説教垂れてくる。
さつきなんかは俺がどこかに行くのか見張ろうとしてくる、恐らくは黒子から頼まれてるんだろうな。
紫原のところに居るコイツの兄貴分らしい男も邪魔だ。
あの赤司ですら最近は連絡を寄越す、お前の命令なんてもう聞くかよ。
本当に俺とコイツの外にある、色んなものが邪魔だ。
「やっぱ、潰しておくか」
そう呟くと、見開かれた目ごと零れ落ちてくるんじゃないのかというくらい、大粒の涙が零れた。綺麗だけれど俺ではない奴のために流したそれは、いらない。
「火神」
目元を拭って「泣きやめよ」と優しい声で言うと、頷くものの溢れたそれは止まらない。
お前って本当に優しくて、お人よしだよな。
「な、青峰……大輝、もう止めてくれよ。俺が一緒なら、いいんだろ?」
「そうだぜ、お前が俺のものならな」
何度も言わせたし、何度も確認させてきたけれど、まだまだ彼は分かってない。
しょうがないよな、コイツは馬鹿だから。
「火神は優しい俺が好きだよな。ちゃんとお前がイイ子なら、俺は怖いことなんて何もしないぞ」
乱暴なことだってしない、それは約束する。
お前が、本当にイイ子でいられるならな。
「それでお前は誰のものなんだ、大我?」
耳元で熱を込めて囁けば、背中がピクッと震えた。下の名前を呼ぶ時は最中しかないから、きっと期待したんだよな、勿論それを狙ったんだけど。
「おれは、だいきの、モノ」
舌足らずに名前を呼ぶ、その声に微笑み返し。そうだよな、とまた頭を撫でる。
「俺に可愛がって欲しいんだろ」
ゆるく腰を動かせば、ドロドロに溶けた内側から喜びの声が喉を通して漏れて聞こえる。イイな、やっぱお前は最高だ。
「どうして欲しいかお強請りしてみろよ、それとも可愛くお願いしてみるか?お前の好きに動いてくれたっていいぜ、大我」
そう言ったなら、俺にキスして「大輝の好きにしろ」なんて言う。
やっぱり可愛いな、俺の大我は。
「ひっ……くん、ぁあ!」
俺しか見えなくなるように滅茶苦茶に突き上げてやると、火神はいつもの癖で声を押さえようとしてきたから、もっと鳴かせてやろうとより激しく突き上げる。
「イッ!ぁ、だいきぃ……も、イク」
「イケばいいだろ、いくらでも」
もうダメだを繰り返す、けれどそう簡単に潰れないのも知ってる。
「もっと悦べよ大我、俺もまナカ出してやるから」
「えっ、ちょっと待って無理だって、も……ぁあ!っぁあああ!」
ビクッと全身を震わせて性を吐き出す瞬間、俺から離れたくないとでもいうように、内側がきゅぅっと収縮する。もう何度も吐き出したその中へまた、俺も射精してやれば入りきらなかったのか、中から白い体液が零れ落ちて来た。
抜いてやると、開ききった孔からゴプッと音を立てて更に溢れ出す、俺のモノ。足を伝う粘液に涙で濡れた顔を少ししかめると、大きく息を吐いてベッドへと倒れ込む。
「火神」
呼びかけるとタルそうな声を上げるが、此方を見ない。無理に起こそうと手を伸ばすと、どうやら限界だったらしく意識が切れていた。
何だよ、これくらいで落ちるなって。
そう思いつつも、ある程度は満たされたので。汗に濡れて張り付いた髪を撫で、グッタリと項垂れる背中に何度もキスを降らせる。
俺のことを甘やかしてはいけないと、多分、色んな奴に言われたはずなのに。火神は俺から離れて行かなかった。今だって、俺の傍にあることを決して止めない。
最初は慰めに近かったんだろう、俺は本気で求めていたけれど、彼にはただ寂しいのだと言って近づいた。
受け入れてくれたのは、お前にもそれなりの気があったからだろう?
そこに付け込んだ結果、こうやって俺に手に入れられている。
それではいけないと彼はきっと思っているはずなのに、抜け出せない泥沼にハマって身動きできないまま、ズルズルと俺の中に墜落してくる。
お前って、本当に最高だよ。
「愛してるぞ、大我」
当時のキャプションが仕事してなかったので、要約するとたぶんなんか暗くてエロい話が書きたかったんだろうなと。
2012年7月9日 pixivより再掲