赤い悪魔とロリポップ
小学校に入るかどうかくらいのころ。地域の子供たちを集めてハロウィンパーティーをする、というイベントがあった。
好きなお化けの格好で、近所の家や巡回している大人達からお菓子をもらうのだ。
「カボチャのお化けのバケツを持ってる人や、このカボチャお化けを置いてるおうちは、お菓子をくれるところだよ」
仮装した子供達を前に、どこかの幼稚園の先生だろう女の人が説明をしていた。一人で絶対に出歩かないこと、幼稚園や保育園の子は小学校のお兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒にいくこと、約束できるかな?なんて話に、素直に手を挙げる友達を見つめて、俺はお化けなのにそんな風に挨拶していいのかと思っていた。
でも、一人だと怒られるだろうから面倒だけど、誰かと一緒に行かないとな……なんて思っていると、ぎゅっと誰かに手を握られた。
「ねえ、きみはひとり?」
そう問いかけてきたのは、深い赤色の悪魔だった。貴族みたいな服に小さなコウモリの羽と先の尖った尻尾をつけた、俺とそう年の変わらない子。毛先にいくほど黒くなる赤い髪と、イチゴ飴みたいな赤い目がとても綺麗だ。それになんだか、甘い香りがした。
「いっしょにいこうよ」
いいでしょ?っと声をかける相手に、すぐに頷き返した。それを見てにっこりと笑う相手に、なぜだが胸の奥がキュッと締めあげられる心地がした。
「ねえねえ、きみもあくまなの?」
「ちがうぞ、おれはばんぱいあ」
さっきから二人ともそっくりだね、と頭を撫でてくる大人がいる。服の雰囲気は似ているかもしれないが、俺の方には尻尾はない。コウモリの羽は俺の方が大きかったけれど。
「ばんぱいあなら、ひとのちをすうの?」
「うーん、おれはちよりもおかしのほうがいい」
そう言うと相手は「おれもだよ」とにっこり笑った。蚊じゃないんだから、血を吸ったって美味しいわけがない。
「じゃあ、いっぱいもらわないとね」
「そうだね」
お化けの群れの中を二人で手を繋いで歩いた、彼が持っていた三つ又に分かれたおもちゃの槍は、カボチャお化けのばけつを提げた手にずっと握られている。大人を驚かせるときに、それでつつくふりをするのがお気に入りらしい。
「Trick or Treat!」
他の子よりも、言葉を教えてくれた大人よりも、そいつは英語が上手かった。俺の「とりっくおあとりーと」という平たい言い方に、終始クスクス笑っていた。馬鹿にされてんのかと思ったが、だっておかしいんだもんと相手は言う。むっとしてそっぽを向いたら、小さな声で「ごめんね」と言われた。
「おれのおうちだと、そんなふうにいうひとあんまりいないから」
そう言うから、ああこいつは海外から引っ越して来たのかなって思ったんだ。見たことないのも、最近こっちに来たせいだからなんじゃないのかって。
でもなんとなく、詳しいことは聞かずに。二人で持ってたバケツと紙袋がいっぱいになるまで、お菓子を貰いに回った。
「いっぱいもらったね」
公園の遊具の中に二人で隠れて、嬉しそうにあいつは言った。
彼のカボチャお化けにも、俺の白い幽霊が描かれたの紙袋にも。色とりどりのキャンディーや、お化けの形をしたクッキーや、蜘蛛の巣柄の包み紙に入ったチョコレートが、詰まっている。大人にみつかったら食べちゃ駄目だと怒られるから、隠れてこっそり楽しもうと持ちかけたのは俺の方だった。
宝の山からバスケットボール柄のチョコレートを口に放り込んで楽しんでいると、少年はニッと笑って「Trick or Treat!」と言った。
今持っているのは貰ったばかりのお菓子で、それを渡すのはどうしても嫌だった。
困っている俺を見て微笑むと「じゃあ、いたずらな!」と言うと、ちゅっと柔らかな音を立てて頬にキスした。
口の中にあったチョコレートの味が一瞬で薄れて、なんとも言えない甘酸っぱい香りが広がる。イチゴや桃やオレンジを混ぜた、癖になりそうなお菓子の匂いだ。
一瞬だけで離れていって、頬を染めて照れたように笑う相手に手を伸ばし俺からもキスをした。頬ではなくて、唇に。
何度も何度も、触れては離れて、また触れ合わせて。柔らかくって甘い匂いのする相手の唇を舐めると、舌先にじゅわっと果汁が弾けたような甘みが広がった。
もっとそれが欲しくて、彼の口の中にまで舌を伸ばした。
「あっ……ん」
「んんっ、あ」
触れ合った舌を擦り合わせるだけで、ぞくぞくと背筋を何かが走り抜けて体温が上がった。痛いくらいの心臓と、初めて感じた下半身の重みに戸惑いつつも、止めることは考えられなかった。
だってこんなに美味しいものは初めてなんだ。人の唾液も、熱も、吐息も、こんなに甘いものだろうか。
熱に浮かされながら貪り続けたキスは、呼吸が続かずに途中で止めてしまった。
熱で赤く染まった頬と、とろけきった目、ほうっと俺を見つめる表情、そのどれを取っても美味しそうだと思った。
「すきだよ」
温まったままの頭でそう告げる。赤く染まった頬に触れて、何度目かわからないキスをする。
これ以上はもう駄目だと本能的に感じ取って、ちゅっと触れただけで離れて、今度は俺が照れ笑いをした。
「あの……な、おっきくなったらおれのこと、およめさんにして」
やくそくな、と小さな手を取って言う相手に向け、視線を合わせずにうんと答える。
そのとき、夕方の六時を告げる鐘がなった。
「かえらないといけないね」
おわかれだね、と残念そうに言う相手に。帰りたくないと俺は素直に告げた。でも勿論そんな我儘どうにもできないってわかっていた。
「やくそくだからね!およめさんにしてくれるの、わすれないでよ!」
「わすれないよ!」
どうしようもない切ない思いを抱えながら力強くそう返すと、うんと嬉しそうに頷いて「あーんして?」と言った。ポケットから赤い棒つきキャンディーを取り出すと、イチゴ味の飴の包装紙を外してキスしてから、おずおずと開けた俺の口の中へ入れた。
「おれも、すきだよ」
飴を入れて膨らんだ頬にちゅっとまたキスをして、赤い悪魔は立ち上がると「またね」と言って去って行った。
その日もらったどんなお菓子よりも、口の中にあるキャンディーは甘くて美味しかった。
袋の中から取り出した棒つきキャンディーの包みを外し、口の中へ放り込む。その様子を見ていた紫原が「俺にもちょうだい」と緩く声をかけてくるので、袋ごとそっと差し出す。
「あっ、赤いのはやらねーぞ。それ以外なら別にいい」
「えー、いいじゃんそれくらい」
そう言いつつも、袋からオレンジのを取り出していくのは、衝突するのすら面倒だからだろうか。
「もう、大ちゃんってばまたそんなの食べて」
「いいじゃねえか、好きなもんくらい自由に食って」
言い争いをする俺とさつきを前に、テツが不思議そうに首を傾げた。
「青峰君って、そんなに甘い物好きでしたっけ?」
別にこいつほどじゃねえよ、と紫原を指すと、ムッとしたのか物凄い目で睨まれた。なんだよ、本当のことじゃねえか。
「なんだか知らないけど、この飴だけ昔から大ちゃん好きなの」
絶対に赤いのだけくれないけど、とさつきは唇を尖らせて言う。
「その飴、特別なものなんですか?」
「別に……なんとなく好きなだけだよ」
適当にそう答えると「そうですか」と相手はすっと引いた。
「イチゴ味が好きとかー、なんか峰ちんらしくなくてキモイし」
「うっせ!別にいいだろうが」
思わず熱くなった頬を誤魔化すように叫ぶ。
ファーストキスの味だとは、流石に恥ずかしすぎて言えない。
口寂しくなると思い出してしまうのだ、あの少年がくれた飴の味を。それと同時にぎゅっと心臓を握りつぶされるような、苦しい思いが広がる。
あの一度以降、約束した相手には会えていない。だというのに、他に女の子を好きになることもなく。健気とも言えるくらいに、あの少年の影を追い求めて、まだ想い続けている。
子供が好きとか、そんなおかしな性癖は持ってないよな、とたまに疑ってみるものの。近所にいる小学生やそれ以下の子供を見ても何も思わないので、危ない大人にはならなくて済みそうだと結論づけている。
だが、彼だけは別だ。
初恋の赤い悪魔。
名前を聞かなかったことを、今でもずっと後悔している。
「それで、あの飴は君にとってどんな風に特別なんですか?」
帰りにコンビニでいつものアイスを買ったところで、テツがそう問いかけて来た。ソーダ味を食べようと準備していた口の中が、違うものを連想して疼きだす。
「別に特別なもんでもねえよ、昔から好きなだけで」
「好きな子に貰ったから好き、とかそんなところですか?」
思わず手にしたアイスを落しかけた。こいつはたまにエスパーかと思うくらい核心を突いたことを言うから恐ろしい。
「図星ですか?」
「うるせえな!」
怒りに任せてアイスを歯で齧っていく。口の中が冷えて、こめかみがキンッと痛む。
「いえ、君にそういう可愛い面がある、というのがその……とても、面白くて」
肩を震わせながら必死に笑うのを堪える相手を見て、思いっきり頭を叩いてやった。
「やめてください、君のようにアホになったらどうするんですか」
「アホじゃねえよ!つーかこれくらいで、移るならいくらでもしてやるぞ」
「無駄ですよ、頭の弱さは空気感染しませんから。でも飛沫感染はするかもしれないので、三メートル以上は僕から離れてください」
こいつ、本当は俺のことが嫌いなんじゃないだろうか。思わず涙目になると、相手はしれっと「冗談ですよ」と真顔で言う。その冗談がわかりづらいんだよお前の場合は。
「その子のこと、まだ好きなんですか?」
「好きっつーか、まあ気になるっちゃそうだな。引っ越したのか知らねえけど、どこに居るかもわかんねえんだけど」
でも気になるのだ、忘れることができない。約束どおりに迎えに行ってやりたくても、どこにいるのかもわからない。相手のほうはとっくに俺のことなんて忘れてしまっているかもしれないのに。
そう思うと、胸の奥がムカムカしてくる。どうしようもない不安が押し寄せ、眉をひそめる。それを見咎めたテツが小さく溜息を吐いた。
「君って本当に、好きなものに一途な人ですよね」
「褒めてんのかよ?」
「褒めてるんですよ。きっと、そんなに想っているんですから相手の方だって、君のこと気にしてくれてるんじゃないですか?」
こんなガングロ、そうそう忘れませんよ。という相手に、とりあえず再び拳骨を落し。鞄から最後の一個だった飴を取り出す。
同じ味を食べているはずだが、あの日ほどに美味しくはない。
それでもやめられないで、寂しさを紛らわせるために何度も口へ運んでしまうのだ。
退屈していた高校生活一年目が半分以上は過ぎるころになって、一つ楽しみができた。
テツの新しい相棒だという、火神大我がそれだ。
俺を楽しませてくれる相手というのならば、黄瀬でも緑間でもまあ誰でもいいんだが、あいつは奴等と比べても格別に楽しませてくれる。
そう気がついて、からしばらくして別のことにも気がついた。
あいつを考えるときに感じる、胸の奥からざわめく感覚があの少年を想うときに似ているのだと。
確かに髪や目の色は同じだ。しかし似ているかと聞かれると首をひねる。火神に可愛げなんて言葉は似合わないし、男を前にして「お嫁さんにして」なんて台詞を言うとも思わない。
だが久々に感じた少年の影に、胸が騒ぐのも事実だ。
誰でもいいのかとイライラしながら、食べる飴の量が確実に増えた。おかげで酷い虫歯にかかり、さつきから飴の禁止令が敷かれてしまったために、さらに苛立ちが募った。
休日のストバスコートで汗を流していた相手に1on1を申し込めば、喜んで喰いついてくる。
バスケをしている間はイライラしなくてすむ、だから会いに行く頻度も高くなる。
それでも体に残る不満は消えてくれない。そんな状態で更に一年近くを過ごした。
わかればいいんだ、あいつがどこにいるのか。もう一度会ってみればはっきりする。成長した姿を見て、思い出はやっぱり過去のものなんだって理解させることができれば、ようやく終わりにできる。
だというのに、お前はどこにいるんだよ。
ストバスコートで一人ボールを弄る。火神に会いたいがために、わざわざあいつがよく使っているコートに行くようになって、どれくらいになるだろうか。最近だと相手の方も楽しみにしている節があったから、できるだけ気にしないようにしている。
だというのに、今日はいつまで経っても火神はやってこなかった。
日が傾きはじめた時間、母親に連れられた仮装した子供達がコートの近くを通り過ぎて行った。
どこかの幼稚園で、ハロウィンパーティーをするらしい。楽しそうな声に、更に苛立ちが募る。
約束なんて面倒なことはしない、だから他の予定が入っていれば会わないのも当然だ。それがわかっていても苛立つのを抑えられない。どこにいるんだよ、という感情はそのまま昔の少年へのものと重なる。
「青峰!」
そろそろ諦めて帰ろうかと考え始めたときになってようやく、待っていた相手の声が聞こえた。
「おいテメェこんな時間までなにしてた!」
理不尽な怒りだと言われたらそうだが、それでも長い時間待っていたのだ、少しくらい感情の逃げ場がほしかった。
だが振り返って見た相手の姿に、思わず固まる。
中世の貴族のような気品のある洋服に、骨ばったコウモリの羽と先の尖った尻尾、頭の横からなにか動物の角が生えている。
「お前、それ……」
「似合うか?」
そう問いかける相手に、素直に頷くと嬉しそうに笑いかけた。
「ハロウィンだから、か?」
もしや学校で仮装パーティーでもしたのかと思って問いかけると、火神は「わかってるじゃないか」と歯を見せて笑った。
「青峰、Trick or Treat!」
綺麗な発音でそう言う相手を見つめ、固まった。
思い出と完全に重なった姿に、心臓が痛みだしてとまらない。
違うそうじゃない、そうじゃないんだよな?となんども口に出さずに心の中で問い返し。動揺しているのを悟られないよう鞄を開ける。さつきにみつからないように入れていた飴の、最後の一個を渡してやる。
赤い包み紙の棒つきキャンディーを見て、火神の顔が変に歪む。
「お前、こんなもん食べるのか?」
「別にいいだろうが」
似合わないと笑う相手に、好きなもんくらいほっておけとイライラしながら返答する。すると喉を鳴らして火神は笑い、渡されたばかりの飴の包み紙を解いた。
「お前が好きなのはこれじゃないだろ」
そう言うと、飴をそっと舐めてから俺の口へと突っ込んできた。何すんだと叫ぶより早く、舌先に広がった味に固まる。
背骨の中まで震えるくらい、体中を溶かす甘さと幸福感。これだ、ずっとほしかったものは。零れ落ちそうなくらい溢れる唾液と、燃えてるんじゃないかと疑うくらい熱い舌で舐める。腰が重くなって立っていられず、その場に膝をついて座りこむと。俺の顔を伺うように火神もその場に腰を下ろした。
震える俺を見て微笑むと、あのときと同じ甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐる。
お前だったのか、そう口にするより先に火神の手が俺の股間を撫でた。
「っあ……」
「すげえ、こんなになってるのかよ」
起ちあがってしっかり膨らんだ俺の性器を、服の上から指先でゆっくりなぞり上げていく。もしやバカにされてんのかと思ったら、目の前で火神は酷く幸せそうに顔を綻ばせている。空いている手を俺の背中に回し、体をくっつけてくる。近付いたことで更に強くなった香りに眩暈がしそうなくらい頭が揺れて、でも逃がさないように相手の体を抱き寄せた。
密着して気がついた、火神のもしっかりと起ちあがっている。
固くなってるそこに俺も手を伸ばしてやると、耳元に「ああっ」という甘くってイヤらしい声が落とされて、思わずイキそうになった。
「か、がみ」
「青峰……」
はっと短く熱い息を零し、火神の目が俺を捉える。
長年ずっと求め続けていた味が口の中いっぱいに広がっている、でも本当に欲しかったのはこれじゃない。頬を染めて見返してくる相手もそれがわかっているんだろう、にっと笑いかけて言う。
「お前が迎えに来てくれないから、俺から来ちまっただろうが」
まだ咥えたままの飴の棒を持つとくっと喉奥に差し入れる、かと思うと唇まで引き出してきて。それを何度も繰り返される。
「なあ約束まだ覚えてる?」
問いかける相手に頷くと、よしよしと頭を撫でられた。
「俺のこと、お嫁さんにしてくれるか?」
勿論だと頷くと嬉しそうに微笑み、出し入れしていた飴を引き抜いた。かなり小さくなった飴を口に含むと、火神は首を少し右に傾けた。
「青峰は俺にどうなってほしい?」
そう言う相手の顎に手をかけて、額同士をくっつける。
「もうどこにも行くな。一生、俺のもんでいろ」
んっと小さな声を上げて、火神の肩が揺れる。いいかという問いかけに、火神は黙って首を縦に振る。
キスをしたいのに、口に入れている飴の棒が邪魔でそれが叶わない。
と、カチリと口の中で小さな音が響いた。欠片になっていた飴を噛み砕いた火神が、邪魔者を捨てて笑う。
「そのかわり、青峰の体も魂も、俺が全部もらうぞ?」
いいのか?という問いかけは、むしろバカらしく感じた。そんなのいくらでもくれてやる。
そう答えると火神は笑った。その妖しく光る唇にキスをすると、嫌がることなく受け入れられた。
甘くて美味しい唇と舌を、精一杯に貪る。腹が減った獣のように、骨までしゃぶりつくす勢いで食らいつく。
これは俺のものだ、このご馳走を知っているのは俺だけだ。そう思ったら誇らしくて、嬉しくて。誰にも知られないように全部、食べきってしまわなければという思いに駆られて、ひたすら吸いつく。
ただ嬉しくて、今までで一番幸せで。気持ち良くて仕方がない。オナニーして、脳髄まで侵される気分だ。頭も体もバカになってる。ただのキスでここまで感じて、どうするんだよ。
そう思っているのに体の反応までは止められない。下着の中で、今まで溜まっていた欲が全て弾けて溢れ出してきているのを感じた。
長いキスから離れてしばらくも、頭がぼーっとしてまともに何も考えられなかった。
それは火神も同じらしく、うっとりとこちらを見る目はうっすらと涙で揺れていた。それが綺麗で、ああもっと色んな顔を見たいと考えていると、火神が俺の頬に触れた。
「よかった、これでようやくお前のものになれるな」
あまりにも嬉しそうにそう言うもんだから、また自分の息子が起ちあがってしまった。どうしてくれんだよこれと文句を言おうにも、相手はそれすらも幸せだと言わんばかりに俺の頬を撫でていく。
「青峰すっごい可愛いし、最高だ」
「可愛くはねえよ。つかお前、エロすぎ」
どうすんだよこれと股間を指せば、火神は喉を鳴らして笑った。
「いいじゃねえか。つーか、これくらい性欲強くないと、俺の相手なんて無理だと思うし」
あまりにも不穏な台詞が飛び出してきて、一気に俺の頭が冷えた。
「……ちょっと待て火神、お前まさかとは思うけど、男の相手とかし慣れてるかんじ、か?」
まあ確かにそれだったらこの色気も、扱いの上手さも、キスの上手さもわかる。ただ、そうなった場合ちょっと可哀相じゃないか、俺が。
「ううん、俺は青峰しか知らねえよ。この体もまだ誰にも触らせてない」
俺の手を取って握りこむと、火神は照れたように頬を染めて言った。
「あんなちっさいころの約束を律儀に守って、ずっと俺のこと好きでいてくれる相手を放り出して、他のやつ好きになるわけないだろ?」
ありがとう、その言葉で大分と俺は救われた。
ただ、わからないことだらけだ。
なんで俺がお前のこと好きなのを知ってたのか、とか。そもそも最初に会ったときにあのときの奴だって言えよ、とか。男を知らないくせに、なんでこんなエロいんだとか。
それを問いかければ火神は、青峰には伝えておくなと笑顔で言った。
「俺、悪魔なんだ。本物の」
「……はあ?」
いや、ハロウィンは冗談を言う日じゃないだろう火神。俺は信じないぞ。例えお前の背中にある羽や尻尾がひとりでに動いていようとも、角が直接生えているようにしか見えなくても。これは夢だと言い切る。
「ああそうだ青峰。お前さっき言っただろ、一生俺のもんになれって。それに対して、お前の体も魂ももらうけどいいかって聞いたら、いいって言ったよな?」
にこにこ笑いながら火神は言う。
急にどうしてか寒気がしてきた。これはもしかして、ヤバいのか?
「俺の全てのために、お前は体も魂も差し出すってことで合意して、契約のキスもちゃんとしたよな?」
ちょっと待てお前。あれは違う、ただ好きだからしたくなっただけで別に他意はないっていうか。契約するならちゃんとそういう説明しろよ、意味わかんねえまま判子押させるとか、それただの詐欺師だろうが。
「契約はもう成立してるから、今さら破棄するとかできないぞ」
にっこり笑ってそう言う相手を見て思った。
間違いなくお前、悪魔だ。
ハロウィンにかこつけて、ふっと火神君が悪魔で、旦那様(という名の下僕かもしれない)を探しに人間界にきてたら、とか妄想していた結果です。
あと、アニメの黒バス見てたらショタイガ可愛くて!
友人と「火神くんも氷室さんも可愛すぎだろ!二人だけで歩いてちゃ駄目だよ!悪い大人に悪戯されるから!早くアレックス来て!」って話をしていまして。それでとってもショタイガ書きたくなったんですね。
でも、そのショタイガとショタミネくんにいけないことをさせた、こいつの頭が犯罪でした。反省はしていますが、後悔はしていません。
2013年11月1日 pixivより再掲