夢―――――

 それは果てしないもの、私がこの世界で見つけたもの。

 見つめる先にあるのは、己の信じた道。

 君がいるから、私は願いを見つけることができた。

 君がいなければ、見つけることができなかった。

 だから、私は君に伝えたい。


 夢を語り、夢を見つめ、夢を胸に戦場を駆ける。

 そんな君は、美しい。



Beautiful Dreamer



聖域にあるコスモス陣営の拠点―――――
バッツ、ジタン、スコールが素材集めから帰ってきた。
大きな袋を二人がかりで抱えるジタンとバッツは元気よく拠点の扉を開ける。
「たっだいま〜〜〜!!
「…ふぅ、今日も連戦だったな!!」
「…これぐらいがちょうどいい」
エントランスにはセシル、クラウド、そしてティーダがいた。
本日上記3人プラスフリオニールの「いつもの4人」で彼らとは別方向へ遠征していた。
その面子を見て「マイナス1」であることに気づいたバッツは3人にもう一人の行方について聞く。
「あれ、フリオニールは?」
「…途中で寄り道したいと。」
「最近何だか溜息ばかりついているような気がするんだよね。」
「そうそう、何だか元気がないッス」
あまり空気の読めないティーダでさえもフリオニールの異変に気づいているのだから相当なものだろう。
その場の全員がそう思った。
そして今日は「留守番当番」だったティナとオニオンナイトが寄ってくる。
「おかえりなさい、皆。」
「おかえり〜〜〜!!」
「ただいま、ニオ」
留守番ありがとう、とセシルが彼の頭を撫でるとオニオンナイトはうれしそうに笑った。
そしてティナはバッツにあることを話す。
「バッツ、今日はフリオニールから急きょあなたに夕食当番替わったの。覚えてる?」
「ああ。だが急だったから何にするか考えていないんだよね。」
「じゃあ今日は私も手伝うわ。」
「僕も!!」
「よし、ニオがやるなら俺も手伝おっかな〜?」
その場のノリでオニオンナイトやジタンも支度を手伝うと言い出し、バタバタとキッチンへ足を向けて行った。
この和やかなやり取りに誰か一人足りないことにセシルは気づく。
そう、ウォーリア・オブ・ライトがまだ戻ってきていないことだった。
ティーダが言うには本日は単独行動だったからかなり遠くへ行っているのだろう、とのこと。
クラウドも同じような意見―――――彼はふとあることを思う。
(たぶん、食事当番をバッツに変えたのは、彼かもしれないね)
そう思った瞬間、扉が静かに開く。そこに立っていたのはチームリーダーのウォーリアだった。
「おかえり。」
「ああ。皆無事か?」
「もちろん。でもフリオがまだ帰ってきていないッス。」
「…フリオニールが?」
「そうだ。途中で別れてどこかへ行ったんだ。」
「そうか…」
ふと何かを思った彼は回れ右をして扉のドアノブに手を掛けようとした。
そんなチームリーダーにセシルは笑いかける。
「行ってあげて。」
「言われなくても、そのつもりだった。」
「そうだね」
また静かに閉じられた扉にティーダはぼやく。
「今のフリオを元気づけることができるのは、やっぱりリーダーじゃなきゃダメかな?」
「…多分、一番最初に気づいたのは彼だと思うよ、僕は。」


今日の夕食当番は今朝突然フリオニールからバッツに代わっていた。
だから彼は聖域の手前でセシル、クラウド、ティーダと別行動を取ることにした。
夕食までの時間、特にやることもなく、ただ一人になりたかった。
聖域の拠点から少し離れた場所に小高い丘があるから、ふとそこへ足を運ぶ。
琥珀色の雲が浮かぶ、夕日が沈みかけた大空。少しずつだが空の青に深い色が加わりつつあった。
久しぶりに見た夕暮れ時の大空、のばらを差し出し、義士は届かない空に手を伸ばす。
「綺麗だな…」
「ああ」
一人のはずなのに誰かが相槌を打ってきた。振り向くとそこにはいつの間にかウォーリアがいる。
彼が神出鬼没なのか、それとも自分が鈍いだけなのか…驚いてフリオニールは後ずさった。
「ちょっ……驚かせないでくださいよ、ウォーリアさん!!」
「ああ、それは悪かった。すまない、驚かせて」
いつものウォーリアからは想像できない柔らかな微笑みで謝ってくるのだから、彼はさらに顔を真っ赤にすることしかできない。
そしてあることに気付いた勇者は、すかさず隣にいる義士に突っ込みを入れる。
「それと、こうして二人の時は敬語やさん付けでなくてよいと何度も言っているのだが…」
「☆°#%∴▽★∞¢!!……すいま…じゃなくて、ごめん」
謝罪の言葉もいつもの調子になってしまい、言いかけた後、直ぐに訂正する彼があまりにおかしくて―――――
ウォーリアはつい口元を抑えてしまう。
それを見たフリオニールはもう沸騰寸前状態。
変わらないいつものやり取り、だがそれがウォーリアにとっては幸せだった。
「一人で黄昏れていたようだが、どうした?」
「いや…なんでもない。」
「何か悩みでも?」
「だから本当に何でもないんだっ!!」
ついカッとなって声を上げた義士に、多少の驚きを見せる勇者。
数秒の沈黙の後、彼は自分が今放った言葉が相手に対してかなり失礼なことをしたと思い、口元を抑える。
「…すまない、悪いことをしたな」
溜息と共に言葉を吐き出したウォーリアはその場を離れようとし、立ち上がった。
横切った表情がかなり悲しそうで…その横顔が目に焼き付いてしまい、素直になれない自分を恨んだ。
とっさにフリオニールは彼を引き留めようと腕を掴む。
「待ってくれ!!」
「…何でもないと言ったのは、君の方じゃないか。」
「いや・・・その・・・ごめん、ああいう風に言ってしまって。でも…」
「でも?」
「…そばにいてくれるだけでいいんだ…」
聞こえるか否かスレスレの小声でようやく本心を明かした彼に目の前の勇者は微笑みを返した。
すぐ近くの岩に腰掛けると、近寄ってきて肩に頬を寄せてくる。
そっと抱きよせて、しばらくそのままでいた。
夕焼け染まる丘、広がる大空はすべてを包み込み、フリオニールの心を癒していく。
そして、彼はぽつりとつぶやいた。
「最近、夢を追うことに疲れているんだ。」
「フリオニール…」
「追いかければ追うほどに、距離を感じて。
 どうしようもなく、途方もなくて。気がついたら、怖気づいている」
フリオニールの疲れの原因は、時として誰もが経験することでもあった。
しばらくなにも聞かず、なにも言わずに目の前の情景に身を委ねさせた。
そんな沈黙、だがそれが心地よいと感じるのは、隣にいるのが自分よりもおそらくはるかに年上である勇者であるからだろう。
いつもその雰囲気に助けらて、癒されている。
どのくらいそんな風にしていたのだろうか――――それくらいの時間、二人は黙っていた。
ようやくウォーリアがタイミングを見計らったように話を始める。
「…誰だって。」
「……」
「誰だって自分の向かう道や夢に対して疑問を持つことはある。」
「ウォーリア?」
「あまりにも長い道程で、先が見えない。誰かの甘い言葉に揺らいでしまう、誘惑に負けそうになる時もある。
 確かに夢は儚く、脆く、叶えるには様々な困難を乗り越えなくてはならない。」
「ああ。貴方が言う通りだ。叶えようとするなんて…」
「だが、無理だと思った時点で本当に終わりだ。今までの努力は水泡に帰す。君は…もう諦めてしまうのか?」
「えっ…?」
「私はまだ諦めない。最後の瞬間まで、やり抜くまで、決して諦めない。」
「貴方にも…あるのか?」
「ああ」
目の前の勇者にも夢がある―――――
その言葉にフリオニールは目が点になった。
だが確かにあってもおかしくはない、あれだけ強い意思を持って戦場を駆けているのだから。
聞いてみたいと思ったが、すでに彼が言葉を続けていた。
「…ひたむきに求めて、傷ついても、それでも君はまっすぐ夢を見つめている。
 その剣に、斧に、槍に、ナイフに弓に、それを込めて戦場を駆けている。」
「…ウォーリア…」
「私は思う、そんな君は美しい、と。」
「なっ・・・!!」
婉曲表現も何も使わずに直球ストレートなウォーリアの「言葉」という球、
それはフリオニールの心のストライクゾーンのド真ん中に投げ込まれた。
またまた沸騰寸前の彼は大慌てで返す言葉を探し当てる。
「…可笑しなことでも言ったか?」
「いや・・・言った・・・言ってない・・・」
「どっちなのだ?」
「あ・・・まぁ・・・可笑しくないから」
目の前で照れるフリオニールの姿が愛おしくて、たまらない。
そんな彼がいるからこそ自らの願いを見出すことができた―――――
そのことを話すタイミングだと思ったウォーリアは彼にあることを告げる。
「そして君がいたからこそ、私も『夢』を見つけることができた。」
「えっ…?」
「それは…この光景だ」
広がる夕暮れの大空、残り少なくなった青の濃淡のちょうど真ん中のような瞳をする勇者。
夕暮れの太陽の光に彼の銀の髪はキラキラと輝き、マントとともに風に靡いた。
2人が見上げる先には雲が散らばり、見事なコントラストを描く。
この光景が彼の夢なのか―――――
「この世界は、調和の力が失われつつある。
 このような風景を見ることができる場所もコスモスの力が残っているところだけだ。
 力を取り戻せば、そうすればこの風景をいつでも見ることができる。
 光あふれる世界―――――世界中に取り戻すのが、私の夢だ。」
「その夢は―――――果てしないな。」
「ああ。だがいつの日か、必ず叶うと信じている」
ウォーリアの力強い言葉に、夢の実現のために疲れていた彼の心に光が宿った。
その凛とした声に、決意宿る瞳に、フリオニールは勇気をもらう。
いつもの、力強い表情に戻りつつある彼に、勇者はもう一つ付け加えた。
「そう思ったのは、君がのばら咲く平和な世界の実現を夢見ていると知ったからだ。
 君がいるなら、私もこの夢を信じて戦うことができる。
 …だからフリオニール、もっと胸を張るんだ」
立ち上がったウォーリアはフリオニールに手を伸ばす。
伸ばして掴んだ掌、引っ張られて立ち上がり、その身体はいつの間にか彼の腕の中にすっぽり収まっていた。
また顔に、体中に熱が走ってしまう。この人にこうされるといつもこうで。
もどかしいけど、それでもこうしてくれるだけでうれしかった。
いつも冷静な表情しかしない、冷たい印象を受けがちだ、だが彼も暖かい―――――
その言葉と温もりが、夢を追うことに疲れた心に広がり、フリオニールを癒す。
「・・・てくれ。」
「何だ?」
「もう少し、こうしていてくれ・・・」
「ああ。まだ夕食まで時間はある」
その額にそっと口づけをして、しばらくの間ウォーリアは彼を抱きしめながら風のざわめきを感じていた。
マントが少し濡れたような気がした。漏れる嗚咽に抱く腕を強くする。
ふと顔を上げたフリオニールの頬に手を添え、タンジェリン色の夕日に染まった琥珀の瞳を見つめる。
そこを濡らす涙を拭って、誘われるように唇を重ねた。


 俺がいたから、彼は夢を見つけた。

 彼がいるから、俺はまた夢のために戦える。

 お互いの決意はお互いがいる限り、揺るがない。

 だから俺も、貴方に伝えたい。


 夢を見つけ、夢を掲げ、夢を抱いて剣を振るう。

 ―――――そう、そんな貴方も、美しい。









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風と星のメビウスのなかた翔様の、5000ヒットフリー小説です。
Wolフリ!!!!!!めっちゃ萌え!!!!!
…と、テンションが上がった末、貰おうかどうしようか散々迷いに迷って、結局貰ってきてしまいました。
宝ですよ、宝!!

なかた翔様、素敵小説をありがとうございます!!


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