土斎とクリスマスの小話
一ちゃんとナーサリーちゃんたちとクリスマス準備の話
「そこの狼さん、よかったら少しお手伝いしてくださらない?」
「いいですよ、お嬢さんがたはなにしてるんです?」
今ね、クリスマスツリーに飾りつけをしているのと、黒いドレスに身を包んだ少女は微笑む。サーヴァントとはいえ子供の姿をしている彼女たちを見ていると、なんだか微笑ましく思えてきて、高いところに手が届かないからという少女を抱きあげ、これでどうですかとたずねる。
「とってもいいわ」
しばらくかかってしまうけど、大丈夫かしらと言うナーサリーちゃんに、これくらい大丈夫ですよと笑って返す。小柄な少女一人くらい、抱えあげるのはなんてことはない。
青々したモミの木はバニヤンちゃんが切り倒して来た物らしい、それをみんなで飾りつけするのが楽しみなんだって、今年は初めてカルデアでクリスマスを祝うボイジャーくんもいるから、飾りつけは金色のお星さまのをたっぷり用意したんだ、ってまるで童謡を奏でるように話して聞かせてくれる。
頂上付近から赤色のリボンをかけ、木の周囲を三回ほどゆっくり周ってあげると、ちょうどいい具合に飾りつけできたらしく、ありがとうと顔のそばで微笑まれる。これくらいお安い御用ですよとおろしてあげると、一番最後の仕上げがまだ残っているのと少女は言う。
「てっぺんにお星さまを飾るの、ボイジャーがしてくれるって」
「ぼくはだいじょうぶだよ、ひとりでとべるから」
「確かにねえ、でも僕にも立場があるんで」
少しくらいお手伝いさせてくださいよと手を差し出せば、じゃあお願いしようかなと素直に抱きあげさせてくれた。
一番上となるとそこそこの高さがあるんだけど、抱きあげた上から更に手を伸ばせばなんとか届いたようで、できたよと周りの子たちに笑顔を向けていた。なんだろうね、生前このくらいの年くらいは子供に好かれるタイプでもなかったんだけど、無邪気な子を見てると胸のあたりが暖かくなる。
「狼さんはクリスマスは初めて?」
「そうだね、僕の生きてたころの日本じゃ、お祝いする習慣はなかったから」
文化としての知識はある程度は持ってるけど、体験はしたことないからどう楽しいものかは知らないんだよと返すと、そうなんだと少し残念そうな顔で返される。いや別に子供のお祭りに我が物顔で居座る気はないですし、そこまで気落ちしないでほしいんだけど。
「クリスマスは子供のお祭りじゃないわ、お友達や大切な人と一緒にお祝いする、特別な日なのよ」
きっとマスターとサンタさんが今年も素敵な日にしてくれると思うけど、それまでの間も楽しんでほしいわと主張する少女に、そこまで思いつめなくていいよ、ほどほどでねと返すものの、それではお気に召さなかったらしく。しばし沈黙して考えそうだと思い立ったように小さな箱を持ってきた。
「これは?」
「アドベントカレンダーよ、クリスマスまでの日付に沿ってカレンダーになっているでしょう?」
毎日一つだけ開けて、中にあるお菓子を食べて、クリスマスまでの期間を楽しんでね。
律儀に毎日開ける必要もなかったんだろうけど、とはいえ子供との約束をなんの理由もなく破るのも悪い気がして、残り日数もほとんどなくなった箱の一つを開ける。
中から出てきたのは小さなチョコレートだった、キャンディだったりマシュマロだったり、基本的には甘い物なんだろうね。まあ大人には甘すぎて歯にしみそうだから、すぐに噛むことはあまりないんだけど。
無言で部屋のドアが開いた、ビクッとしたのもつかの間、よく知った気配だったのですみませんが挨拶くらいお願いしますよとだけ返すと、無言のまま詰め寄られる。
「え、ちょっとなに」
用件すら教えてくれないまま、噛みつくように口を塞がれる。魔力切れでも起こしたんですかと思った矢先に、ムッと顔をしかめて離された。
「おまえ、なに食ってる?」
「なにってチョコレートですよ、貰い物ですけど」
甘いと不機嫌そうに吐き捨てるので、そりゃそうでしょうと自分の口も拭う。熱を交わしたせいで口の中にあったお菓子もすっかり溶けてるし。
「なんでそんな西洋菓子」
「クリスマスっていうんでね、貰ったんですよ」
あの祭りかとさして興味もなさそうに言うので、知ってるんですねと返せば何年ここに居ると思ってるとつぶやく、そりゃそうだ。
「それでなんの用です?」
「用もなしに来ちゃ悪いか?」
別にそうじゃないですけど、言ってくれてたら茶くらい用意してたんですよと返す。
「おまえ、明日の夜は空いてるか?」
「はあ、別に予定はないですけど」
「じゃあそのまま空けとけ」
いい酒が手に入ったから、ここに呑みに来ると言うのでそうですかと返す。じゃあ適当につまみでも用意しておきますよ。
「もしかして、クリスマスイブってことで、ちょっと浮かれてます?」
笑ってもらおうと思ったんだけど、黙ってこちらを見返すだけで特に言い返されることもない、まさかとは思うけど本気ですか?
「まあ楽しみにしてろ」
「あ、はい」
土斎のクリスマスの話
日本酒片手にクリスマスを祝うっていうのは、作法としてあってるんですか? そう聞いたら、知らんと一言でぶった切られる。別に飲める口実ならなんでもいいと言うし、確かにそのとおりなのでありがたくお相伴させてもらってる。辛口でキリッと引き締まった好みの味だ。
沖田ちゃんはマスターちゃんたちとのパーティーに出ているそうだ。
女の子ばっかりの集まりだから邪魔しないように、というのがこの人の言い分で、僕としてもそれを受け入れるだけ。
色気も何もないこんな部屋にわざわざ運んでくれたんだから、多少は慰めになってもらわないとね。
「おまえも随分と、当世の流行りに乗ってるだろう」
なんのことか聞けば、子供たちやサンタを経験した人たちから分けてもらったクリスマスの飾りのことらしい。花見で桜を見なくても、花の下にだけは集まるようなのと一緒だ、多少の雰囲気は出しておいて悪いものではないでしょう。
「誰かに誘われたりしなかったのか?」
「そのまんまお返しします」
初めての行事ごとなら、どこぞのお節介が放っておかないだろうと言うとおり、まあ確かに声はかけられたんですけどね、先約があるんですよと返せばそれ以上は深入りされないからね。
「ああでも、昼のお茶会には誘われて行ってきましたよ」
この間、ツリーの飾りつけを手伝ってあげたお礼だって、わざわざ招待を受けたんだから断るのもなあと。
「らしくねえな」
「そう思いますか?」
子供の相手をよくしてたのは沖田のほうだからな、おまえはあまり近づかなかっただろうと指摘されたら、まあそのとおりです。今回もなんか興が乗ったくらいで、さして意味はないですよ。ただ集まって一生懸命もてなしてくれる彼女たちの笑顔は可愛いと思った、我が子を育てたという人生経験上、そう映るだけかもしれないけど。
「知らないな、おまえのそういう顔は」
「そうでしょうね、別れてからのことですし」
この話はやめときましょうか、お互いにあんまりいいことないでしょう。
「そういえば、クリスマスの飾りにも色々と意味があるらしいですね」
縁起物ってことらしいですよと言えば、そういうもんだろうなと部屋に置いてあった花輪を見る。リースの飾りだって定番だと教えてもらった、彩る花や葉に色々と由来はあるけれど、中には変わったものもあると。
「クリスマスの日に、ヤドリギの下に立った人はキスを断れないんだそうですよ」
リースの中程にある枝を指して言うと、ちょっと目を見開いてしばし僕の顔を覗き見る。
実際のところどれほど効力があるのか知りませんけど、まあ伝承というか文化としてはあるということですから、意中の人がいるなら試してみてはと言われた。これは子供からではないですよ、勘繰られたんだ、こんな日に一人でいるのには理由があるだろうって。
「珍しいな、おまえが積極的なのは」
「昨日はどうも副長の興を削いでしまったようなので」
チョコレートなんて食べてたから、甘すぎたんでしょう、口直しくらいはしますよと言うと、そうかと満足そうに返される。手にしていた杯を奪い取られて、あごを掴まれて唇が重なる。甘さを含んではいるものの少し強引なのだ、いつもそうだから特別驚きはしません。別にいやだと思ったことはないんで、ただ人目がつくところじゃないのが条件だ、と言ったのを律儀にも守ってくれているから、こんな日くらい少しは甘やかしてもいいかと。
「それだけか?」
「もっと期待されても、困るので」
どう困ると耳元に口を寄せてこられると、すでにそれが困るとつぶやく。どうせ祭りに浮かれた頭なんだから、好きにさせてもいいかとも思うんだけどね、この人につき合うの結構大変だし。
「誘ったのはおまえだろうが」
「わかってますよ。でも体力が違うんで、あんまり無茶されると困るかなーって」
なら満足させてくれよと意地悪気味に笑う、実はその顔が結構好きなので、ちょっと見たかっただけだったりする。その代償は覚悟が必要そうだけど。
土斎の聖夜の話 ※R18
「あっ、あの副長、ちょっと、んっ、ちょっと待ってください」
見下ろしてくる相手に声をかけると、少し不服そうではあるものの動きは止まる。その合間にゆっくり息を吸っては吐くを繰り返す、汗で額に貼りついてた髪を不器用に撫でて外してくれる。
触れる指は硬く分厚い節くれだっている、マメができては潰れた剣を握る手、間違いなく男の手だ、額から頰へ降りてきた手に自分の手を合わせて、もっと撫でてくださいよと頰を擦り寄せて口の端だけで笑う。
乗りあげてる相手の首に腕を回して抱き締めれば、皮膚を伝って脈打つ心臓の音や巡る血の熱さまで伝わってきて、この男の全てを独り占めしているって実感できて、好きだなあと思う。
「おい、いつまでこうするつもりだ?」
「息くらい、整えさせてください」
過呼吸になったらそれどころじゃないでしょうと言うと、そんなヤワじゃねえだろうと一刀両断される。そりゃ鍛えてますけど、だからってなにされても平気ってわけじゃないですよ。
いい心地なんですよ、酒は美味しくて、少し寒かったはずの部屋が今はむしろいい具合の温度になってて、体の底から皮膚から髪先までとっぷり快楽に浸って、最高にいい気分だ。だから早々に終わらせるのはもったいないし、口に含んでゆっくり味わいたい美味いものってかんじ。
そんなこと言おうものなら、いくらでもおかわりさせてくれそうだけど、そうじゃなくってさ、高い酒を舐めるように飲むのが美味しいんじゃないですか。いつまでも口の中に入れて味わっておきたい、そういう気分にもなるってもんでしょう。
「おい斎藤」
「もうちょっとだけ、お願いします」
ぎゅっと抱き着いて、頭を撫でてもらって、今すっごく贅沢してるなと思う。大きくて硬い手は、言葉に反して優しいんですもん、甘やかしてくれる兄のようですよ。
「兄弟とはこんなことしないだろ」
「たとえですって。大体、副長はそんな枠に収まりませんし」
その解答がお気に召したのか、反論しようとした口が閉じられた。とはいえ顔はまだ不服だと書いてあるので、そろそろお預けはやめて続きをお願いしようか。
「ねえ副長、続き」
言葉の途中だったのに、頭を優しく撫でてくれてた手が離れて、腰を掴まれて奥に熱の塊を打ちつけられる、ヒッと短くあがった悲鳴すら飲み干すように唇が重なり、舌が絡みつく。舌の表面ですり合わされて唾液があふれ落ちていく、まさに溺れるようだ。
「ん、んんっ、はぁ副長、ふっ、んぁ! ああ、副長」
離れた舌が耳へと向かい息を吹きかけるように、わずかな音で名前を呼ばれる。
「こういうときくらい、名前で呼べ」
「むりですよ、んんっ、慣れてません、から」
「呼べ」
できるだろ、はじめ。
耳元に落ちるように言われ、ビクリと背筋と体の内側から喜びに震える。なんでこんな今、と思うものの独り占めしたいんだろうと、耳たぶに噛みつかれる。
「ひっ! ちょっと副長、んんっ、噛まないでください!」
そうしてる間にも中のいいところをギリギリ外して打ちつけられて焦れったい、副長と呼んでも動きを変えるつもりはないようだった。
「あう、あの、土方さ」
「そっちじゃねえ。もっとよくなりたいだろ、なあ一?」
体から火が出そうなくらい熱が登る、けれども呼ばない限りはイカせる気もなさそうだ。見あげる相手の顔が悪い笑みを浮かべている、どこから見ても面白がってる顔だ、被虐趣味はないはずなんだけど、どうにもこの男の顔には昔から負け続けてる。
「あっ……うう、歳三さん」
勘弁してください、もう好きにしてくれていいんでと言えば、ちゃんと呼べるじゃねえかとまた優しい手で頰を撫でられる。
「甘えてえんなら好きなだけしてやる」
だから名前呼ぶくらいで照れるな、黙って一人で満足してんじゃねえ。
土斎のクリスマス次の日
朝日を無事に拝むことができたのに感謝しつつ、とりあえず起きるべきかと思ったけど、あんまりにも寒いのでまだ寝具に包まっていたい気分だ。
武士ならシャキッとしろと怒られるところなんだろうけど、寒ければ身が縮むのは人であった証拠だし、いざとなれば飛び起きれるけど、そうでないなら気が緩むときだってあっていいでしょ。
「起きたか」
声をかけられて目を開ければ、すぐ隣で昨日の熱を分けあった相手が悠々と寝転がっている。あ、まだいらしたんですかと多少上ずった声で返せば、おまえが離さなかったからなと意地悪く言われる。
「そんなこと、僕言いました?」
「覚えてないか」
記憶にないというほど酩酊してはいないけど、思い出したくはないです。可愛かったぞと頭を撫でてくれる大きくて硬い手に、こういうの困るんですと返す、嫌だったわけじゃないけど、どうにも腹の据わりが悪くて仕方ない。
「そろそろ飯でも食いに行くか?」
「ええ、その前にシャワーでも浴びてきます」
汗やらなにやら洗い流してきたほうがいいでしょう、そう返すと湯を張ってやるからしばらく待ってろと言われる、そこまでされる必要ないですよと軽く拒否しても、いいから待ってろと頭を乱暴に撫でて行ってしまった。
ありがたいんですけど、あの人から甲斐甲斐しく世話されるのはなんか恐縮してしまって、更に居心地の悪さが増すだけなんだよなあ。そう思いながら跳ね回っている髪をとかすために指を通すと、違和感があるのに気づく。そろりと指を髪から引き剥がし、昨晩はなかったはずの薬指にしっかりとはめられた金属を見つめて、三度ほどまばたきをした。
「ちょっ待って、はあっ、えっ? なにこれ!」
寒さとかそんなもの吹っ飛ぶくらいにビックリして、ベッドから飛び起きる。仔ウサギでも暴れ回ってるんじゃないかってくらい跳ねる心臓を抑えつつ、なにが起きてるのか整理しようとするものの、なにも。
「おお、ちゃんと目覚めたか」
そんな僕をニヤニヤしながら見て来る相手に、情けない声でいつの間にこんな物用意したんですと聞けば、大したことはしてないだろうがと言う。
「いやそれ以前に、なんで」
いいじゃねえか虫避けになると言うけど、そんな問題じゃないんですよ。なんでこうもキザったらしいことをすんなりできるんです、どんな強靭な神経してんですかあんた。
「おまえが誰かにそそのかされたように、俺も焚きつけられた」
絶対に裏切らないとわかっていても、自分の物だって印をつけておかないと面倒じゃないかって、だったらまるっと自分の物だと示すような物を贈るのが筋だろう。
だからといってわざわざ左手の薬指にというのは、僕もビックリですよ。この指につける意味知ってるんでしょ、この人はやること全部が本気だからタチが悪い。
「僕、一応は既婚者なんですけど」
「だからなんだ」
それを持ち出して逃げられるわけじゃないけど、一応は言っておかないといけないでしょう。
「どうする、捨てるか?」
「そんなもったいないことするわけないでしょ、まあ、ありがたく受け取りますけど」
そうか、なら呼びかたも直せと言われるので、生前からの習慣なんて死後に修正できるわけないでしょうと弱々しい声で返す。
「なんでだ、嫁さんだろ」
「今更、嫁は無理ですよ」
その前に男は嫁げませんし、僕らってば生身の人間でもないですし、そこら辺どうなんでしょうね。
「二人のときくらい、いいだろう」
「まあ、善処しますよ」
11月末くらいから、葵のtwitterにて毎日小説を書こう企画のまとめです。
2020年12月25日 Twitterより再掲