酒は飲んでも呑まれるな
「そういえば今日さ、前の作戦に出撃してたメンバーで祝勝会するって?」
食堂の手伝いを頼んだ相手からそう声をかけられて、だからこの忙しさなんだと肩をすくめてみせる。
「ふーん。あのさ、キセルはあんまり飲ませないように気をつけてね?」
ちょっと困ったことになるからさと言うカトラリーに、そんな酒癖悪いのかと聞くと、まあうんそんなとこと言葉を濁される。
「泣き上戸になるとか?」
「うーん、そういうわけじゃなく。いや泣くには泣くんだけどそれだけじゃなくて、どう言ったらいいのかな。とにかく面倒だから、絶対に飲ませないで」
そう再三と釘を刺されたのにも関わらず、俺が目を離した僅かの隙にホールによる飲み比べに巻き込まれ、中心でたっぷり杯を空ける姿を見て頭が痛くなった。
てっきり弱いから止めるように言われたのかと思ったが、最初にラップが潰れ、言いだしっぺのホールが潰れ、キンベエが潰れ、残ったドライゼと変わらぬペースで飲み続けるキセルを見て、止めるタイミングを完全に見失っていた。
「とんでもねえザルじゃねえか」
「どうした?」
喧噪から離れて潰れた奴等を介抱してやっている傍らで、べスがたずねてきた。一応、カトラリーから聞いてた事前情報を教えて、いまだもって酒を煽る相手を二人して見る。
「見た目に反して飲むから気をつけろ、って意味だったんじゃないか?」
「だといいけどな。なんか引っかかる言い方だったんだよ」
そう言った直後、どうやら勝敗がついたらしくテーブルから歓声が上がる。両腕をあげるドライゼの姿が見えた。
「ゲルマンは、なんでああも酒に強いかねえ」
「さあな、しかしキセルの奴、別に潰れたわけじゃないのか」
べスが指摘する通り、顔はほんのり赤くなっているが潰れたというわけではないらしい。自分からギブアップを宣言したようだ。
なんだよ、ダメな量もちゃんとわかってるんじゃないかと思ったのも束の間。
「ドライゼさん、おめでとう」
「ああ、ありがとう。しかしすまんな、つい熱くなってしまっ」
その後の言葉は吸い込まれた。
そう文字通り吸い込まれた、キセルの口の中に。
どうやってかってそりゃ、相手の胸倉掴んでキスしてるんだからそうなるな!
宴の途中じゃなかったのかと疑うくらい、時間が止まったかのように静まり返る場に、熱い吐息と水音が響く。
なんとか自身の腕力でもって引き剥がすことに成功したドライゼの、アルコールのせいじゃないだろう真っ赤な顔を見てキセルはにやりと笑う。
「あは、そんなに赤くなっちゃって、意外と可愛いんだあ」
「なっ!」
おいおい待て、ありゃどの人格だ。戦闘時でも平常時でもないだろ、どういうことだ説明しろカトラリー!
心の中で叫んでも相手は夕方から遠征のために基地を離れしまった。だからこそ俺に助言を残していったわけだが。
「えへへ、結構美味しかったよ。ねえもう一回しよ?」
「いやコラ待て!待て、こういうのはだな!ちゃんと想い通わせた相手と、聞け!」
「いいじゃない、別に。減るものでもないし、気持ちよくしてあげるから」
そう言ってにじり寄る相手を全力で止めているドライゼだが、平静を保てていないのは傍から見て明らかでいよいよまずいと止めに入る。
「はーい、そこまでね?ちょっと人の目があるから、やめておこうかキセルくん」
再びドライゼから引き剥がし、ぎゅっと腕の中に収めると不服そうに頬を膨らませる相手と目が合った。
「別にいいじゃない、ただの接吻でしょ?」
「そうは言っても、目のやり場に困るの。わかる?」
「えー、これくらいみんなしてる癖に」
知ってるよ、こっちじゃ接吻は挨拶なんだよねーと若干舌足らずに言う相手に、いよいよ頭が痛い。そりゃキスは挨拶だけど、口にはしねえよ男同士で。
そう言ってやろうかとしたらみるみる目に涙が溜まっていく。
「挨拶もしたくないくらい、俺のこと嫌い?」
やめろ、小動物のような目で見るな、悪いことしてる気になるだろ。
そっと心の中で頭を抱える俺のことなんて放置して、相手は俺の腕からするりと抜け出すとベスの元に向かう。
「そういえば、この間の作戦はベスさんのお陰で勝てたんだよね?すごいなあ」
「あ、ああ。あれくらいは普通だ、白兵戦は得意だしな」
さっきまで半べそかいてたのが嘘なんじゃないかって言うフニャリとした、幼い笑顔で言う相手に、まんざらでもなくそう答えているベスだが、その首筋に相手の両腕が絡んだところでハッとしたように相手を引き剥がそうとするが。
「そっか俺、強い人大好き」
そう言うと同時に舌を伸ばした口に、そのまま塞がれる。
クチュと音を立てて、相手をひたすら弄んで気が済んだのか離れる頃にはベスの顔は茹で上がったタコみたいになっていた。
「ベスさん、ベスさん」
「な、ななななんだ!っていうか、近いぞ!おい、離れ……ちょ、おい!エンフィールド!見てないで助けてくれ!」
彼を慕う後輩くんは、食堂の片隅で呆然としていたが、助けを求める声に我に返ったらしく慌てて二人の元へやって来た。
「き、キセルさんちょっと酔いすぎです。ほら、先輩も困ってますから」
「なんで?別に俺酔ってないよ?」
「酔ってます!そう言う方は大概酔っているんです!それより、先輩を離してください!」
貴方ばっかり狡いですと叫ぶ相手に、ベスを含む全員がポカンとする。それをどう受け取ったのか、キセルは抱きついていた相手から腕を離して、目の前で説得していた相手の首筋を撫でる。
「なんだ、貴方もして欲しかったの?」
いいよと天使のように笑う反面、舌を出して相手の下唇に触れると真っ赤になる顔を見て更に笑みを深める。
「エンフィールドさんも強くて好きだよ?でも、これくらいで動じてるんじゃダメかな?」
本当にやったら倒れちゃうかもねと笑う相手に、失礼ですねと叫ぶが、問題はそこじゃねえだろ。
「自分が羨ましいと言ったのは、そうではなくて。自分でもベス先輩にハグなんてしたことないのに、貴方」
「ん?あーそういうこと?ごめんねえ。でも欲しいんなら、自分から行かないと奪い取られちゃうかもよ?」
思ったよりみんな隙だらけだからさと言う相手の、見ようによっては幼子のように見えなくもない笑顔に気圧されるエンフィールドの肩に手を置いて、先ほど見せた妖しい笑みに変える。
「ほら、簡単に取られちゃうよ?」
そう言うとエンフィールドの唇に自分のものを軽く重ねて、完璧に固まった相手をベスに任せると、ひらりと手を振って離れていく。
次に飛び火する前に止めなければと思うよりも早く、彼はナポレオンとアリ・パシャという普段なら声すらかけない二人の着くテーブルに行ってしまった。
「なんだ酔っぱらい、俺様は今こいつと大事な話をしている」
「まあ良いではないか。さっきから見ていたぞ、強い男が好きなんだろう?このナポレオンこそが強い男ということだ」
「おい待て、お前が一番だというのはいただけないな。お前はどっちが目当てで来た?」
「え、俺?うーんとね」
二人ともこの中だと強い人だもんねとはっきり答えず、二人を見比べる。
「強い人も色々だもんねえ」
「世は皇帝ナポレオンであるぞ、兵をまとめ国を築き上げる、絶対的な武をもってしてなしとげられぬものはない」
「ふん、言わせておけば。なあキセル、強い者と言ってもおまえが求めるのはただ王道を行く者ではないだろう?そう、時には卑怯と呼ばれる手を使う者が征することもある。その計算ができるか否か、そして執行できるか否かも大事だ」
違うか?と問われて、そういう人好きだよとへにゃりと笑う。
「ただ非情な人は嫌だけど、野心がある人は好きだよ」
「話のわかる奴だ」
マジか、普段なら目すら合わせることすらしないだろうアリ・パシャと堂々と話してるなんて。
「あの、タバティエールさん」
「あっ?ああ、すまん。なんだ?」
「いえ、助けるなら早くした方がいいですよ。僕自身は別にどうなろうと構わないんですけど。あの顔、アリ・パシャが利用価値を品定めしてる顔です」
彼、奇銃の利用方法について興味あるので下手に弱み握らせない方がいいですよ、というエセンの助言に押される形で、食堂の奥に置いてあった少し値の張るワインを片手に、二人からの追求をのらりくらりとかわすキセルの後ろに立つ。
「すみませんね、ご迷惑をおかけしたみたいで」
「別に迷惑だとは思っていないぞ?普段、話をする仲ではないが、こうしてみると可愛らしいものではないか」
「確かにな、悪くはない」
そう笑う二人の目の前に、手土産代わりのワインを出してやる。
「これは?」
「せっかくの祝勝会なんで、奮発して用意したんですよ。ブルゴーニュ地方の赤ワインです。まあ、迷惑料ってことで、これで勘弁してくれません?」
二人の目の前に置いたグラスに注いでやると、深紅の液体から登る香りを楽しみナポレオンの方は笑みを深め、アリ・パシャはゆっくり息を吐いた。
「どちらがより強い男かは、また日を改めてゆっくり聞こうではないか」
「そうだな、ではそれまではこの件はキセルに預けよう。必ず決めてくれよ?」
「へへへ、俺でいいんですか?」
「ああ、楽しみにしているぞ」
そう言いながら頰を撫でるアリ・パシャの手に嬉しそうに頬ずりする、その幼い顔に、思った以上に可愛らしいところがあるとナポレオンは笑う。
その二人の視線から逃げるため、早々に彼を立たせる。
「ほら、キセル。もう行くぞ」
「えーまだいる」
「ダメだ、行くぞ」
それからなんだかんだと俺の腕から出て行こうとする相手を引っ掴んで、食堂を出て宿舎の彼の部屋へと連れて行った。
普段はケインとカトラリーと同室だという部屋は、今晩は誰もいない。灯りのない部屋のベッド脇にあるランプに火をつけ、コップに水を注ぐとぼうっと自分の寝台に座る相手に渡してやる。
「あれ、タバティエールさん?」
「なんだ?」
ここどこと首を傾げる相手に、おまえの部屋だよと答えると、見回してああ本当だと言う。
「ほらこれ水飲んで落ち着け」
「うん、ありがとう」
受け取ったグラスに口をつけて、ゆっくりと飲んで行くがその口から水がこぼれた首筋を伝って行く。
ああ、もうと奪い取って水を拭いてやると、ぎゅっと俺の手の上から彼の手が重なる。
「どうした?」
「あったかい」
もっとと言いながら、俺の方へ額を預けてくる相手にまだこれは酔ってるなと諦めたように溜息を吐く。
「飲みすぎだぞ、ほらしゃんとしろ。今日はもう寝るんだ」
「それじゃあ、ねえ、タバティエールさんも一緒に寝よ?」
一人は寂しいんだと言いながら、掴んだ俺の手を引き寄せて胸元で握り締める。我儘ばかりの相手に、溜息の数は増えるばかりだ。
「おまえな、いい加減にしなよ。人をからかうのは楽しいかもしれないけど」
「からかってないよ、本当に」
一緒にいて欲しいんだ、寂しいんだと、子供のように嫌々をする。さっきまで並みいる男たちの唇を奪い続けていた本人とは、到底思えない。けれども、あれだって事実で。
「おやすみにキスをしてくれない相手とは、添い寝はしないよ」
薬をつけるつもりで言葉で突き放して手を引けば、彼は目に涙を浮かべて俺の腕を掴む。
「キスするなら、居てくれるんだよ、ね?」
「おまえな、いい加減にしないと怒るぞ」
特別じゃないと嫌だなんて、そんな我儘を言うものか。おまえが好き勝手するのは構わないけど、自由にならないものがあるってわかってくれ。
「あのな、おまえわかってるか?自分がどんなに危ないことしてるか」
「危ないって?」
誰も居ない部屋のベッドに男を誘い込んでいることに、危機感を持って欲しい。男同士だから平気だって?そういう問題じゃないんだよ。
押し殺している感情もそろそろ限界だ。奥歯を噛んで耐え忍んできた、おまえが他の男を誘いかけるのを見つめて。なんとか止めないとと思いながら、自分にも誘いの声がかかるんじゃないかって少しだけ期待して、裏切られて。
今おまえが求めてるのは誰だ?誰の熱を求めてる。
「タバティエールさん、俺さ、一人じゃ眠れない」
お願いだから一緒に居てと言う相手に、溜息を一つ。掴まれた腕を外してベッドへ押し倒すと、彼が何度も仕掛けていたように深く口付ける。ビックリして押し返そうとする相手を逃げないように押さえつけて、舌を絡ませれば恐る恐ると応えてくれるので、くすぐるように舐め上げる。
「あ、ふぅ……ん」
吐息さえも飲み込むように深く口付けていく、抵抗をやめた指が俺の背中に伸ばされてシャツを握り締めるのに頰を吊り上げ、上顎を舐めてやるとふうっと苦しそうに息を吐く。
「おいおい、ギブアップは言わねえよな?」
口が触れそうな距離で問いかけると、乱れた息と涙を溜めた目が何をと問いかける。言葉にはせず、力の入らない相手の服の下へ手を滑らせると面白いくらいに体が跳ねた。
「わかるかい?男を誘うと、こういうことになるの。きみがどんな気まぐれで人を誘ったか知らないけど、据え膳を前にして我慢がきくほど、俺も男捨てたわけじゃないんだよ。きみが誰か欲しい人がいるんなら、手当たり次第はいただけないぜ」
彼のシャツのボタンを外しながら、ねえわかってるかい?と聞くと、とろんとした瞳で見つめて彼の方から俺の口を塞いだ。
仕返しとばかりに舌を絡めてくる相手に、何がなんだかわからない。
「誰でもいいなんて、言ってないよ?」
「強い男が好きだって、言ってただろ」
「うん、強い人が好きだよ。強くて、とっても優しい人がいい」
そういう人の体温や匂いが落ち着くんだと言うと、俺の首筋に顔を埋める。抱き締められて完全に固まってしまった俺に、傍にいてくれないかなと呟く。
「俺なんかでいいの?」
「ん」
もしかして、と淡い期待を込めて相手の顔を見ようと少し上半身を起こしたところ。枕の上で気持ちよさそうに目を閉じる彼の顔があった。
「あれ、キセルくん?」
抱きついた腕はそのままに、意識が落ちたらしい。
「おいおい、嘘だろ」
どうすんのさこれと頭を抱えるものの、肝心の相手が寝てしまっているのでは答えは聞けず。どこから寝ぼけていたのかもわからなければ、酔っぱらいの戯言だと言われればそれまでで。完全に弄ばれた気分だ。
「ああもう、罪な男だよきみ」
全然離してくれる気配のない彼に溜息一つ、ベッドに畳んであった毛布を引き寄せて自分と腕の中にいる彼にかかるようにかけた。
「キスしてくれたから、添い寝はしてあげるけどね。いつか、ちゃんと誰がいいのか聞かせてよ」
でなきゃ期待しちゃうでしょと苦笑して、穏やかな寝息を立てる彼の頭を撫でた。
殺気を感じて目を開けると、動くなという冷たい声と共に額に冷たいものが突きつけられる。
これでも銃であるわけだから、それが銃口であることはすぐにわかった。問題は、なんで今ここでこんな風に突きつけられないといけないのか、ということだ。
普段の笑顔とはかけ離れた冷酷な視線でこちらを見下ろすケインを見て、なんの冗談かな、と若干ボケてみたけれど効果はなく。
「冗談かどうかは、おわかりになるかと思いますが?」
「ああうん、あんたが本気なのはわかったよ。でもなんで」
「なんで?その状態で、どの口が言うのでしょう」
その状態、つまりは今の俺に問題があるのかと思って、数秒で理解した。抱き合って眠った相手と今も同じベッドで横になったままな自分。
「ああ。これは、弁明はさせてはくれない感じ?」
「それを聞く必要がありますか?」
ですよね、顔に絶対に殺すって書いてるもんな。
「ケインさん待って、とりあえず基地内で早まらないで」
そう言いながら、額に当てられていた彼の本体を持ち上げたのはカトラリーだった。
なんとか弁明くらいは聞いてもらえるかと思って、体をベッドから起こしたところ、毛布に隠れていたが服の前を大きく開けた彼の体を見られてしまった。
「ああ、やっぱやめた」
完全に黒だよねと言う彼の言葉と共に、顔面に思いっきり鉄拳を食らった。
カトラリー、見かけによらずめちゃくちゃ力強いんだなと若干意識が遠くなりながら思った。
「ねえ言ったよね、キセルにはお酒飲ませないでって」
二人の目の前で正座して、額にケイン本体の銃口を突き立てられながら昨日あったことを説明したところ、深い溜息と共に二人の警戒と誤解を解くことはできた。
いやまあ、押し倒しはしたけど、キス以外はしてないから。制裁はカトラリーの鉄拳一発で許してくれるとのことだ。この二人、なんだかんだキセルに対しては甘いんだよな。
「いや、本当にすまなかった。丁度、厨房からつまみ取りに行っててさ、その隙にホールに拉致されたみたいで」
「仕方ありませんね。ホールさんにも厳重に注意しておきますか」
「そうだね。また同じようなことあったら、面倒だし。あ、アリ・パシャから助けてくれたのはありがとうね。彼、色々と僕らのこと探ってるみたいだし、あんまり弱み見せたくはないんだ」
後ろ暗いことに利用されるのは僕らの常だけど、あんまり望まないことはしたくないんだよねと言うカトラリーに、再度悪かったと頭を下げる。
「ところで、あいつの酒癖なんで知ってたんだ?」
「前に諜報活動で、敵軍基地近くの酒場に三人で行った時に、ちょっとね」
「キセルさんがそこで酔漢に絡まれまして。サングラスをかけていましたので、売られた喧嘩は買うぞと息巻いて飲み対決になり、相手を潰したんですが……」
そこで完全にできあがったキセルに、二人揃って交互にキスを迫られたらしい。なんとなくその光景が想像できてしまう。
「先にそれ言ってくれよ、まったく大変だったんだぞこっちは」
「キス魔になる上に超が付く小悪魔だから気をつけろとかさ、言えるわけないでしょ」
ていうか言っても信じなかったでしょとトゲのある言い方をされて、まあそりゃあなと苦笑して返す。酔った勢いとはいえ、あれがこうなるとは誰が想像するもんか。
「よりによって、なんでまたキス魔なんかに」
「キセルってそもそも煙草だから、人が口を付けて使うものでしょ。その名残じゃない?」
「おそらくはそうでしょうね、我々は自分の擬態するものに少なからず影響を受けていますから」
そう話す二人に、そうかいと痛む頭を抱えて言う。
もう駄目だ、絶対に二度と人前で酒は飲ませない。男ばかりだから良かったものの、女の子に向かった場合は酷い問題になったな。
いや、男相手でも問題は問題か。
あの惨状を思い出して頭を抱える。人にキスを強請りまくった癖に、やっぱり俺は眼中にないかとショックだった。
「ねえタバティさん、キセルを部屋に連れてきたのってさ……最初に誰かにキスしてからどれくらい経ってた?」
「ああ、そうだなそれなら、大体一時間くらいだったと思うぞ」
すぐに部屋に引き戻そうとしたけど、俺の手を離れて色々と場をひっちゃかめっちゃかにした上で、なんとか捕まえて無理矢理引き摺るように部屋へ連れて来たのを思い出して言うと。おかしいですねとケインが呟く。
「何が?」
「いえキセルさん、実は酔いから覚めるのすごく早いんですよ」
三十分ほどすればキスをねだるなんてことはもうないはずなんですが。
「まあ前回と今回では、お酒の種類も違うかもしれませんし、酔い方も違ったかもしれませんが」
「でも一時間でしょ。流石に酔いも覚めてたんじゃないの?」
じゃあ何か?
昨晩ベッドに招き入れたのも、俺に迫って来たのも、まさか酔ったふりしてたとでも?
まさかそんなわけ、ないよな。
恐る恐る隣を見る。昨晩の余韻に浸ってまだ気持ちよさそうに眠っている、彼の幼い姿。
こいつが、いやまさかな。
そう結論付ける俺は見てなかった、後ろを向いて真っ赤に染まった頬を隠す相手の顔を。
キセルくんが可愛くて仕方ない。彼が色んな人から愛されるのをそっと見守りたい所存です。
2018年5月14日 pixivより再掲