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隠し味の秘密

ケインさんは二人きりのときに、とっておきだって出してくれるお茶がある。
それがとても美味しくて、好きなんだけど。
「いつものと、なにが違うの?」
「少しだけ隠し味を加えています。お気に召していただけているなら、嬉しいのですが」
「好きだよ、甘くて美味しいから」
いい香りのする少しスパイスの効いたお茶は確かに美味しい、特別ですよって悪戯っぽく笑う顔も、なんだか心をくすぐられて好きだ。
そう言ったら、また二人きりのときに淹れますねと約束してくれる。
紅茶と一緒に漂う仄かな甘い香りと、ケインさんの笑顔に胸がキュッと締めつけられる。この人と二人で過ごす時間は、なんだかあったかくて、すごく特別な気がして。
意識すると胸が高鳴る、特別なんだなあってわかる。
ただそれがいけないほうに傾いてるのではないか、と自分で意識したのはついこの間から。
彼を思うと胸が熱くなるのは、まだいいんだけど、最近はなぜか一緒に体も熱くなる。話してるときなら、まだ気も紛れるんだけど、でも、一人になったら体の熱を持て余してしまってダメだ。 部屋で一人きりだったから、というのはある。二人ともまだ帰ってこないだろうし、夜も遅いから訪ねてくる人もいないだろうって、気が抜けてしまったのと。
なによりしばらくケインさんの顔を見ていなかったのに、洗濯を片付けていた途中でみつけた彼のシャツの香り、染みついた紅茶の甘い匂いに揺れていた欲が刺激されてしまった。
「はぁ……あ、あぁ」
勃ちあがってる自分のモノに手を伸ばしてゆっくりとしごく、よくないことをしてるって意識はあるけど、でも慰めなくちゃもう破裂してしまいそうで。
「あっ、ケインさん」
名前を呼んでみるとぞくりと背筋に快感が走る、罪悪感にお腹の底からぎゅうって抱き締められてるような、そんな感じ。悪いことだってわかってるのに、癖になりそう。
彼のことを思いながら、自分を慰めているのはきっと滑稽なんだろうなあ、そう思いながら手が止められない。片付けようとして離せなくなってしまった皺の寄ったシャツに唇を寄せて、布の端を噛むと鼻の奥まで抜けるような甘い香りに包まれる。
「ん…んんっ」
味のしないシャツを噛んで、更に快感を求めて手を動かしていたところ、静かに部屋のドアが開いた。
「おや、まだ起きて」
意外そうに俺を見た彼の顔が驚きで固まってしまう。そりゃそうだ、こんな、恥ずかしいことしてる場に出くわしたら誰だって気まずい。一気に全身が冷えてしまうような感じがして、口に咥えていたシャツを取り落としてしまう。
ドアを後ろ手に締めて鍵をかけてしまうと、早足で俺の横になるベッドへとやって来た。
「こういうことをされるときは、鍵はきちんと締めておかないと、ね」
「あ、ご……ごめんなさい」
「謝ることではないでしょう、男所帯ですから、性欲を持て余すこともあるでしょう」
人の体とはそんなふうにできているようですからと、優しく言ってくれるけどそうじゃない。俺の欲を刺激してきたのは、今目の前にいる、噛んで皺にしてしまったシャツの持ち主なのだから。
「吐き出してしまったほうが楽ですよ」
「あ、じゃあ、どこか行ってくるから」
「ここでいいじゃないですか、鍵も締めてしまいましたし」
「でも、ケインさんは」
嫌じゃないだろうか、自分のシャツをこんなことに使われた相手と同じ部屋なんて、恐々とそうたずねると、この程度気にしなくていいですよと握り締めていたシャツを奪い取られてしまった。
「ほら、抜かないと終わりませんよ?」
「ひ、やめっ!ケインさん、待って、待ってねえ」
するりと彼の指が張り詰めていた自分のモノに絡む、優しく撫でるように、でも確かに吐き出させるように責め立てられて、頭がおかしくなりそう。なんでこんなことするのか聞く余裕もないまま、ベッドに乗り上げてきた相手のいいように擦りあげられ、先端をこね回される。
「あ、やだ、ケインさん!ケインさん待って、それダメだって、あぁ!」
「気持ちいいですか?ほら、出していいんですよ」
「やぁ、こんなのダメ、やだ、ダメだって、あっ!」
先端を器用に責め立てられて、間もなくぎゅっと下腹に溜まっていた熱が解放される。ビュッと勢いよく出たそれを見て、随分と溜められていたんですねと苦笑される。定期的に出してしまわないと、体にはよくないそうですよなんて言われても。
「はあ、だ、だって……他の人、こんなことしてない、でしょ。ケインさんだって」
「心外ですね、私とて男ですから。そういう欲くらい持ち合わせてますよ」
ほらと太ももに押しつけられた彼のも、確かに硬く張り詰めているようで、へっと素っ頓狂な声をあげてしまう。
「任務で長らく処理してなかったもので、帰って来てみたら随分といいことをされているので、当てられちゃいました」
嫌じゃなければ一緒にしていいですかと聞かれて、なにも考えられないままどうぞと口にしていた。ありがとうございますと微笑むと、モノクルを外してサイドテーブルに置いて再び向き直ると、自分のズボンに手をかけて前を開けていく。
飛び出してきた彼のモノは思っていた以上に大きくて、そんな欲と無縁に思ってたからなんだか意外で、ドキドキしながら見つめてしまう。
「そんなに珍しいですか?」
「あ、ごめんなさい。ケインさんって、そんな、こんなことしなさそう、だから。意外で」
「ですから、見えないところでしてるんですよ、みなさんね」
そう言いながら体を寄せられて、ビックリして彼を見返すと、一緒にしていいとおっしゃったじゃないですかと苦笑される。
「えっと、あの、それって?」
「ですから一緒にしましょう。キセルさんもまだ足りなさそうですし」
ねと笑って半勃ちになってたモノを握りこまれ、それだけでまた熱が昇ってくる。恥ずかしくて泣きそうなんだけど、おかしなことじゃないでしょうと彼は笑う。
自分のと俺のを器用に擦っている、少し熱のあがった赤い顔を見てて、ドクドクと心臓が痛いくらいに血を回して着て、そっと彼のに手を伸ばしていた。
「キセルさん?」
「あっ……俺ばっかり、してもらうわけには、いかないし」
だからと言いわけのように呟いて、手にしてみたもののどう動かしたらいいのかわからず、痛くないくらいの力で握り締めて上下に擦ってみる。
「んっ!」
「ご、ごめんなさい、痛かった?」
「……いいえ、いいので、続けてもらっていいですか?」
人にされるってこんな感じなんですね、と照れたように笑うその顔が可愛く見えて、胸がキュウッと苦しくなる。もっと気持ちよくできるだろうか、俺なんかの手で、彼をそんなふうにできるんだろうか。そう思いながらなんとか手を動かしていくけど、それは相手も同じで責め立てらて何度も手が止まってしまう。
「あっ……あ、んんっ、ごめんなさ。ちゃ、ちゃんとする、から、んぁあ!」
「そうですか、ありがとうございます……ねえ、キセルさんも、いいですか?」
「ん、すごい気持ちいい、けど俺ばっかり、こんな」
一緒にって言ったのに、自分ばかり甘やかされてるみたいで申しわけない。
そうしたら、ならこういうのはどうですかと俺のほうに更に体を寄せて、自分のと俺のを重ねるようにして握りこまれる。
「あ、え……あの、こんな」
「ふふ、これで一緒に、気持ちよくなれる、そうでしょう?」
「そ、だけど。でも、あっ!」
両手で彼のに包まれて互いの熱を合わせて一緒に擦り合わされる。ぴったりと触れ合うとより彼の熱を感じて、ぞくぞくと背筋を走っていく快感にあっと声をあげる。思わず逃げようとしてしまったけど、むしろ引き寄せられてしまう。
「あの、あの、これ」
「ほらキセルさんも一緒に」
そんなこと言われてもと逃げ腰になる俺の手を取って一緒に重ねられる、こんなことダメだよと小声で返してみても、最後までつきあってくれませんかと言われると、断ることができない。おずおずと導かれるまま包みこみ、二人で擦り合わしていくとやらしい音を立てて、俺のとケインさんの体液が混ざり合っていく。
いけないことしてるって思うんだけど、熱に浮かされたように熱心に擦り合わされる彼の顔を見ていると、やめてって言う気持ちが削がれる。むしろ叶うなら、もっと触れ合ってみたいな、なんて。
「あっ、ケインさん、ケインさん」
「ねえキセルさん、気持ちいいですか?」
「うんすごい、きもちいい、よ」
「そうですか。ふふ、人にされるって、いいものですね」
「そう、だね」
こちらを見つめて微笑む彼の名前をなんども呼んだ、もっと触れていたい。もっと気持ちよくしてみたいなんて思うんだけど、どうやったら喜んでもらえるかわからなくって、一心に手を動かすだけ。
「ん……あのキセルさん、私そろそろ」
「俺も、もうイキそう」
それなら一緒にと囁かれて、うんと小さく頷いて返す。しばらくしてくっと喉を鳴らして、赤くなった彼が強く目をつぶり、大きく体を震わせると脈打つそれからどくりと勢いよく性を吐き出す。それを見て熱に当てられたように覆われていた彼の手の中で俺も果てた。
しばらく荒い息を繰り返していたものの、落ち着いてきた頭でこんなことしてよかったんだろうかと考える。ケインさんも同じことを考えていたんだろうか、向き合って目が合った後、さっと再び顔を赤くした相手が置いてあったタオルで二人分の精液に塗れた手を拭い、片付けてきますねと声をかけられる。
「それなら、俺が行くよ。ケインさん、もう疲れてるでしょ」
「いえ、そんなことは」
「いいから、もう休んでて、ね?」
なんとか引き止めて部屋を後にして、汚れたシャツや衣服を誰かにみつかる前に洗濯してしまう。俺が噛んでよだれが染みこんでしまったケインさんのシャツも、合わせて洗濯している最中、罪悪感というか、後ろめたさがガンガンと頭を打ちつけてくる。
こんなやらしいこと、ケインさんとしてよかったんだろうか。そんな気分だったのかもしれないけど、結果的に巻きこんでしまったわけだし。ああでも、すっごく気持ちよかった。一人でしてるときと全然違う、ケインさんの綺麗で長い指が俺なんかのモノに絡んでくるの、いけないことだって、わかってるから余計に感じてしまった。
思い出してまた熱くなりかけた体をなんとか振りほどいて、部屋へと戻る。
ドアを開けるとまだ明かりはついていた、そしてよく知ってる甘い香りに声をあげるより早く、おかえりなさいと声をかけられる。
「お茶を淹れて来たんですが、キセルさんも召し上がりますか?」
「う、うん……ありがとう」
いいんですよと言う彼に勧められるまま席に着いて、カップに注いでくれたお茶に口をつけると、なんだか普段より少し甘く感じた。
「もしかして、甘すぎましたか?」
「ううん、でもなんで」
疲れが取れるようにといつもより少しだけ多めに入れてみたんだっていう、前々から彼が入れてくれる隠し味のことだろう。甘くて落ち着く香りが口いっぱいに広がる、確かになんだか疲れが癒される気がした。
「これ、好きなんだ」
「私もです」
同じようにお茶に口をつけるケインさんに、あのと声をかける。
「今日のことは、その、秘密にしておいてね」
「もちろん。私のほうこそ、そうお願いしたいところでした」
お互い顔をつき合わせて顔を赤らめて、なんだか気まずい空気が流れる。
「ケインさんも、こういうことするんだね」
「ええ、まあ……キセルさんはあまりしないんですか?」
慣れてなさそうだったからって指摘されて、なんだか悪いことしてるみたいでって言うと、いいも悪いも仕方ないことですからと返される。
「でも」
「確かに人目は避けますが、悪いことではないでしょう」
でも次からは鍵は締めてくださいねと苦笑される、改めて謝ると、気をつけてくだされば問題ありませんよと言われる。
「でも気持ちよかったですね」
「そ、それは……うん」
とても気持ちよかった、それは間違いない。二人分の快楽が重なって、倍増されてったような、いけないのに癖になりそうな感じ。
「嫌でした?」
「ううん、そんなことない、よ」
だからこそよくないと思ってる、一人だけじゃ満足できなくなっちゃったら、どうしよう。
「もしお嫌でないのなら、その、おつきあいくださいませんか?」
相手がいないと、どうしても持て余してしまいますからと言われて、いいのと思わず声を返す。
「でも本当に、俺なんかでいいの?」
「ええ、とても色っぽかったんですもの」
他の人に見せたくないと思うくらい、とても可愛い顔をしていたと。自分ではそんな意識がないんだけど、なら余計に他に譲りたくないと彼は言う。
「そ、そんなに、情けない顔してた?」
「そうではなくて、私一人であったらいいなあと思いまして」
いけないでしょうかと問われて、そんなことないよと返す。なんだか恥ずかしくて淹れてもらったお茶を口に含む。甘い香りに胸が暖かくなる。
「それではまた今度」
「は、はい」
甘い香りにつられて返事をしてしまったけど、本当によかったんだろうか。

あとがき
ここしばらくずっと同人誌ばっかり書いてて、ピクシブさんで気軽になんかアップしたいなあ、とちょっと前から思っていまして。
それで少しずつ書いていたものの、ふとウェブでいい感じの文字数ってどんなだったっけと頭を抱えて。
全部書き上がるのを待つか、読みやすさ重視でシリーズ化するかで迷って。
このまま手元で腐らせておくより、一話で分断していこうとようやく踏ん切りがついたので、投稿した次第です。
そんなかんじで、今後も気ままに書いていけたらいいなと思います。
書きかけの物も徐々に仕上げていきたいですしね。
2019年11月10日 pixivより再掲
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